ボンゴレといえば、イタリア一の大物マフィアだ。ローザも、ボンゴレの名は知っていたが、実際に関わるのは殺し屋として活動してから1年、今回が初めてだった。今まで近寄ることすらなかったボンゴレの本部に今、ローザは一人で足を踏み入れている。門のあたりに立っていた構成員に案内され、やけに豪奢な部屋の中で待機させられた。
「・・・それにしても凄い部屋。」
自分が今座っているワインレッドのソファーの滑らかから見て、相当高級なレザーを使っているのだろう。壁を見れば大理石が輝き、天井を見上げれば豪奢なシャンデリアが輝く。おまけにローザのすぐ脇に飾られている花は、恐らくイタリア一の高名なフラワーデザイナーの作品だろう。ローザはその甘ったるい匂いに眉を寄せながら、人が来るのを待っていた。やがて、ゆったりと扉が開き、東洋人の男が現れた。
「待たせてすまない。君がローザか?」
「ええ。あなたは?」
「俺は沢田家光。ボンゴレの門外顧問だ。」
門外顧問と言えば、実質ボンゴレのNo.2だ。家光はローザの正面のソファーに向かい合って座った。ローザの顔の傷に驚かないのは、さすがボンゴレの人間だと思った。
「君に依頼したいのはこいつの暗殺だ。」
家光が一枚の写真を取り出した。その写真に写っていたのは、ローザもよく知っている殺し屋だ。変装に関しては彼の右に出るものはいないと言われる。
「来週の別ファミリー主催パーティーでこいつがウチの御曹司、ザンザスを狙ってくる。君にはこいつを狙撃してほしい。」
「・・・。」
依頼がめちゃくちゃだ、とローザは絶句した。まず、相手は変装の達人だ。もしボンゴレの御曹司に近づいたとして、相手が誰だかわかなければ狙撃できない。それに、もし相手が自分と同じ狙撃の方法を取ったら、そもそもの狙撃が成立しない。
「・・・こいつは、どこに雇われたの?」
「それは言えない。」
何故言えないのか。ローザはメルのように頭は良くないが、勘だけは鋭い。ローザは一つの事実を確信していた。
「・・・ねぇ、もしかして、こいつを雇ってるのって、パーティーの主催ファミリーなんじゃない?」
「・・・!」
「招待されたからには代表が行かなければならないと言っても、狙われてるのがわかってるのならば、行かなければいいだけの話じゃない。何故、大事な大事な御曹司をそんな危険な場所に?」
「それは・・・。」
「確かあなたのトコの御曹司、時期ヴァリアーのボスでしたっけ。」
そもそも、裏社会でもそれなりに名が通る実力を有している筈のザンザスの殺害など並大抵ではない。もし狙われていても、それをものともしないだけの実力がザンザスにはある筈なのだ。それにもし、主催ファミリーに雇われていたとしたら、周りは敵だらけである。そんな場所に一人だけで行かせる訳がない。恐らくは・・・。
「あたしを囮に使って、御曹司に敵が行かないようにしたいんでしょう。」
「・・・。」
「あなたたちの目的は主催ファミリーのボスの暗殺・・・。違う?」
ファミリーがファミリーのボスを狙う、というのは、裏社会にとってスキャンダラスなことである。なるべく知られたくなかったのだろう。自分はザンザスの初仕事の補助として、敵の囮になるために雇われたのだ。メルも随分な仕事を回してくれる。
「・・・参ったな。」
家光が降参だ、とでも言うように両手を上げた。しかし、ローザはこの依頼を断る為に事実を追求したのではない。ローザには、確実な自信があった。
「いいわよ。」
「!?」
「受けてあげるわ。この依頼。」
家光は初めて動揺を表に出した。ローザには自信があるのだ。必ず狙った獲物を撃ち殺せるという、自信が。