ゆらゆら、ゆらゆら。夢の中で何かが揺れる。メルは今まで体験したことのない感覚を奇妙に思いつつも、ああ明晰夢を見ているのかとその場に座った。
『クフフ、珍しいですね。人の夢に引き込まれるなど。』
ゆらゆらと揺れる影から声が聞こえた。メルは影に視線を移す。ぼんやりとぼやけた人影のようなものが見えた。
『ですが、あなたには大した力は無いようだ。ぼんやりとしか姿を現せない。』
「・・・あんたの力が無いんじゃなくて?六道骸。」
影が揺らぎながら沈黙した。どうやらこの影の正体は六道骸で間違いないようだ。
『・・・何故僕が六道骸だと?』
「その変態みたいな笑い方には覚えがあるからね。」
表情など見えない影がニヤリと笑ったような気がした。影がゆらゆらと揺らぎながらメルに近付いた。
『・・・メル・ジャッロ、ですか。これはこれはお久しぶりで。』
「エストラーネオのモルモットが、随分偉くなったよね。今じゃ復讐者のブラックリスト入りじゃん。」
六道骸ーーー
それは以前、メルが復讐者からの依頼により行方を探した男の名である。
『あの時は随分お世話になりました。・・・こんなマフィア風情の女ごときに、この僕の居場所を掴まれるなんてね。』
「マフィア風情も何も、こちとらそれが商売なんでね。」
メルは座ったまま影を見る。ぼんやりとしていた影が、少しずつはっきりしてきた。
「悪く思わないでよね。信念で動くあんたと、利益で動く私は違うってことだよ。」
少しぼやけて骸の表情が見える。明らかな憎しみと怒り、失望の表情が、メルを射殺さんと睨みつけていた。
『・・・クハハハ!僕が復讐者から脱獄した暁には、あなたから殺してさしあげましょう。』
「やってみなよ。こっちにはボンゴレっていうデカい隠れみのがあるからね。一筋縄じゃいかないよ。」
お互い負けじと睨みあったあと、骸の影がどんどんぼやけていく。憎しみの表情は完全に見えなくなり、人の形すら成さなくなっていく。
『・・・お時間です。あなたともしばしのお別れですね。』
影の声が真っ白な空間に反響する。メルは先程と変わらぬ目つきを影に向けた。
『ここまでです、メル・ジャッロ。あなたとはまた違う場所で会いたいですね。』
「私は別に会いたくはないけど。」
『クフフ、そんなつれないことを言わずに・・・。それでは、さようなら。』
声がどんどんフェードアウトしていく中、影が完全に消えた。残ったのは真っ白な空間に一人佇むメルだけ。メルは先程まで影があった場所をちらりと見る。もう何も起きそうにないことを察すると、夢の中でまた眠りについた。