ある時、リボーンは9代目の護衛の一人としてとあるパーティーに参加した。そのパーティーの主催者は銃の使い手であり、余興としてとあるゲームを始めた。それは至って簡単なゲームである。会場から遠く離れたビルの屋上に立てられた看板を、誰が一番正確に撃ち抜けるか、というものだ。


「リボーン君、是非君にも参加してほしいね。」


「いいのか?俺が出るんだったら賭けはできねえぞ。全員俺にベットするからな。」


「ははははは・・・。いいや、私は彼女にベットするね。なんならコインを10枚ほど賭けていい。」


「彼女?」


「ミス・ヘイヘだよ。」


リボーンは口笛を吹いた。ミス・ヘイヘ。シモ・ヘイヘの再来と呼ばれる天才女スナイパー。最近めきめきと頭角を見せはじめ、乗りに乗っている殺し屋だ。ボンゴレとも多少の縁がある女だが、リボーンはまだローザと対面したことがなかった。


「ミスが来ているのかい。」


「ええ、9代目。先日、我々が依頼しましてね。その礼も含めて招待したのですよ。」


「俺は会ったことがない。どうだ、いい女か?」


「ははははは、殺し屋としては最高だが、抱くには少しねえ・・・。」


「あら、失礼じゃないドン・ミトゥラ。」


9代目の真後ろから女の声がした。主催者のミトゥラはしまった、という顔をしている。リボーンは声の主に振り返る。女の顔を見た瞬間、表情には表さなかったが、一瞬ぎょっとした。女の顔の右半分が、原形を成さないほどに潰れてしまっていたからである。


「あたしはてっきり、あなたはもうとっくに枯れてしまっていたのだと思ってたんだけど。」


「は、ははは、ミス、すまないね。ほんのジョークだよ。」


「知ってるわ。冗談が通じない程つまらない女じゃないもの。・・・で、あたしに10コイン賭けてくれるんですって?」


「あ、ああ、もちろん。」

「なら本気を出さなきゃね。銃を貸してちょうだい。そこの坊やに合わせてリボルバーでやってあげるわ。そのちっちゃなお手々じゃあ、ライフルは持てないでしょ?」


ローザはミトゥラの懐にある銃を奪い取った。去り際にリボーンをチラリと見遣り、ニヤリと笑う。ローザの挑発に乗せられかけたリボーンはレオンの計上をリボルバーに変え、射撃位置に向かう。













パーティー会場の屋上からは、一昔前のハリウッドスターが並んでいる看板がうっすら見える。射撃位置から看板までの距離は遠く、常人ならば狙撃専用銃でなければ狙撃は不可能だ。しかし、リボーンとローザは、リボルバーでそれをやってのけようと言うのだ。


「あなたは誰を狙う?ベベ・チェッキーノ(ベイビー・スナイパー)?」


「オードリー・ヘプバーンを。いい女だぜ、あんたと違って。」


「あら、そう。これでも昔はよく似てるって言われてたんだけど。」


リボーンは無言でレオンを看板に向ける。しばらく沈黙が走り、やがて空間を裂くような銃声が響いた。9代目とミトゥラが双眼鏡を手に取る。


「あら、ヘプバーンにピアス穴が出来たわね。」


双眼鏡を覗くことなく、肉眼のみでローザがそう言い切った。9代目とミトゥラが慌てて覗くと、確かにオードリー・ヘプバーンの右耳の部分にピアスの穴のように銃痕が残っている。


「目がいいんだな。」


「狙ったの?」


「・・・。」


はっきり言ってしまえば、偶然だ。スコープも無しの状態で、この距離から狙うのはいくらリボーンでも無理なのだ。オードリー・ヘプバーンに当てるという大まかな狙いならばつくが、右耳一点を狙うのは不可能だった。


「お前は誰を狙う?」


「そうねえ・・・。」


ローザは看板に銃を向ける。ミトゥラの手によって改造されたリボルバーは、看板まで射程距離に入っている。リボーンが立っていた位置より僅かに後ろから、ローザは狙いを定めた。


「フランク・シナトラの左目を。」


銃声が響く。リボーンは双眼鏡に変えたレオンから看板を見る。確かに、看板の右端にいたフランク・シナトラの左目に、銃痕が残っていた。


「あたしの勝ちね、ベベ。」


ローザはリボルバーをミトゥラに放り投げ、下の会場へと戻っていった。













「・・・す、すげえーーーっ!!さすがはミス・ヘイヘ!」


獄寺君が目をキラキラさせながらリボーンの話に聴き入っている。それにしても、あのリボーンが負けるなんて。ランキングでは同率一位だったが、世界一のスナイパーと自負しているあのリボーンより、凄い人がいるんだな。


「なぁに、ツナがボンゴレ10代目になればいつだって会えるぞ、獄寺。」


「マジっスか!?」


「へー!俺も会ってみたいのな!」


・・・ってちょっと、何話を勝手に進めてんの!?第一俺は、10代目になんかならないってば!凄いなとは思うけど、そんな怖そうな人会いたくもないよ!


「10代目!就任が楽しみですね!」


「ハハッ、ツナ!どんな人なんだろーな!」


「ミスに会う為にもさっさと立派なボスにならなきゃな、ツナ。明日からキッチリシゴいてやる。」


ひ、ひえーーーーーーーーーーーーっ!!!




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