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麦わら帽子で隠してしまえ




しかし今日もあっついなァ、額の汗を拭いながら、ウソップがダイニングの扉を開けた。その腕の中には、作ったばかりのかき氷機がある。この強い日差しとまとわりつくような熱気の中、フランキーとウソップ工場にこもり作り上げたものだ。
サンジはシャツの袖をまくると、やっとできたかと笑みを浮かべた。冷蔵庫から冷やしておいた色とりどりのシロップを取り出し、カウンターの上に並べていく。
そのとき、慌てたようにルフィとチョッパーがキッチンへ飛び込んできた。ウソップの腕の中のかき氷機を見とめた瞬間、大きな歓声を上げる。どうせなら、外でかき氷大会だ! ルフィが腕を振り上げると、そりゃァいいと全員で同意した。
さすがのルフィも暑さのためか、麦わら帽子は被っていないようだ。サンジは珍しさに眉を上げたが、特に気に止めるわけでもなく、かき氷大会の準備を進めていった。皆が芝生甲板にテーブルやシロップを運んでいる間に、凍らせておいた氷をクーラーボックスに移す。

結果、かき氷大会は大盛況だった。凍らせたドライフルーツなどで彩り、様々な味のシロップを楽しんでいく。サンジは世話しなく給仕に回っていたため、ゾロだけがおやつを食べに来ていないことに気づくまで、しばらく時間がかかった。まーた寝てやがんのか、と呆れながら額の汗を拭い、クーラーボックスを開く。あれだけあったはずの氷は、もう心許ない。
この暑い中、一体どこで昼寝をしているのか。ナミやロビンがパラソルの下でかき氷を食べながら、おいしいと声を上げる。サンジはたまらず目をハートにさせ、暑さなどもろともせず、二人の元へ駆け寄った。いつもに増して露出の高い麗しいレディたちに鼻の下を伸ばし、よく冷えたジュースを差し出す。
それから、かき氷を勢いよく頬張りすぎて頭を抱えている男共を尻目に、足早に階段を上っていった。日の位置から見て、ちょうど木陰になる船尾甲板に、ゾロがいる可能性が高いとサンジは踏んだのだ。
すると、予想外に階段を上ってすぐの場所に、船尾までの道程を塞ぐようにしてゾロが眠っていた。ダイニングのすぐ横にいたというのに、全く気がつかなかった。
燦燦と、大の字になったゾロの全身を、日が照りつけている。まさに、光合成真っ最中といったところだ。暑さで寝苦しくないのかとサンジが歩を進めたとき、ゾロの顔の上に麦わら帽子が乗っかっているのが目に入った。
サンジは背後を振り返り、芝生甲板にいるルフィを見下ろす。やはり、その頭に麦わら帽子はなく、いつものように首に紐を引っかけて背中へぶら下げているわけでもない。
サンジはむっと唇を尖らせて、ずんずんと大股歩きでゾロの元へ向かった。甲板に広がる着流しの裾を踏みつけないように気をつけ、ゾロの脇にしゃがみ込むと、煙草に火をつける。
「おーい、マリモくん。起きろゾロー、襲っちまうぞクソバカマリモ」
ゾロに嫉妬をするのは筋違いだと理解してはいるが、胸中を渦巻くもやもやは一向に晴れない。
ルフィはただ、ゾロが暑そうだからとか、そういう単純な理由で、麦わら帽子を被せてやったのだということは分かっている。だが、他人には絶対に触らせることのない、大切なものを、なんの疑いもなくゾロに預けてしまうのだ。風でも吹いたら、一瞬で飛ばされてしまうだろうに、ゾロがどうにかすると、信じて疑っていない。二人の間に己が入る隙はまるでないと、ルフィとゾロを見ていると、思うときがある。だからこそ、些細なことでも、サンジには気にかかってしまうのだ。
ウソップやチョッパー、ブルックがゾロに同じことをしたとしても、きっとこんな気持ちにはならないだろう。
小声で呟いたぐらいではゾロは決して起きないと知っておきながら、サンジは忠告したからなと、ゾロの顔から麦わら帽子を奪った。大口を開けて気持ちよさげに眠っていたゾロは、日差しを浴びてすぐに顔をしかめた。
サンジが深々と眉を寄せたとき、仲間の声が近づいてくることに気づく。サンジはかがみこんでゾロへ顔を寄せると、麦わら帽子で強い日差しを遮った。階段を上ってこない限り、しゃがみ込んでいるサンジの姿は、仲間に見られることもないだろう。
ゾロの唇に優しくキスを落とすと、下唇を啄ばみ、すぐに顔を上げた。ゾロの目がゆっくりと開いていき、至近距離にあるサンジの顔を認めた瞬間、思いきりその顔がしかめられる。
「何してやがる」
「別に。王子様のキスで眠り姫を起こしてやろうかと」
「…アホ」
ゾロが深々とため息を吐きながら上体を起こすのと一緒に、サンジも顔を上げる。あっちィな、と日差しの強さに顔をしかめたゾロの頭に、サンジは不躾に麦わら帽子を被せた。それから、おやつはかき氷だとゾロの肩に腕を回す。もう一度勢い任せにキスをしてから、膝を払いつつ立ち上がった。
しっかしお前似合わねェなァ、ゾロの頭を指して笑ってやる。ゾロは麦わら帽子を脱ぎ、なんでここにあるんだと不思議そうに首を傾げた。ちりちりと突き刺すような紫外線にサンジは身を焦がせる。
ゾロは麦わら帽子を手に立ち上がると、早く食わせろとかき氷を催促し、強い日差しから逃れるように麦わら帽子を被った。
ゾロのかき氷には、いちごとメロン、そしてブルーハワイのシロップをかけてやろう。ルフィとゾロ、そしてサンジの色だった。それぐらいなら、二人の間に割り込むことも許されるだろう。
サンジは振り向いて、早くしねェと氷が溶けちまうとゾロの腕を引いた。胸のもやもやは、さっぱりと晴れた空と、照れたようなゾロの顔を見たら、どうでもよくなった。

(20130808)


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