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浮気性を一太刀




(713話から)


サンジは、なかなか繋がらない子電伝虫に苛立ちを隠せずにいた。サニー号へは何度かけても繋がらず、島へ降り立った仲間たちに順に繋げてみようと思っていたところだ。ナミたちは無事だろうか。
心配そうにサンジの顔を覗き込むヴァイオレットへ笑顔を浮かべ、やっと呼び出し音が切れ、仲間と繋がったことでサンジは声を張り上げる。やはり、一人で行かせたことは失敗だったと後悔していたところだ。諦めず後を追いかけるべきだった。だが、こんな美人を前に見惚れるなという方が無理な話だ。
誰も追っ手が来ていないことを確認し、人ごみに紛れ込むように歩調を緩める。
だが、繋がってすぐに聞こえてきたのは、思いもよらない女の子の声だった。ゾロへ子電伝虫を繋げたはずだが、サンジは遅かったかと手の中の子電伝虫を睨みつける。すると、アンポンタン! とたしなめるような可愛らしい声に続いて、聞き慣れたゾロの声が聞こえてきた。
黙れとは、レディに向かってなんて口の聞き方だと顔をしかめる。同時に、ゾロが無事だったことが分かり、サンジはほっと息をついた。
「レディといちゃいちゃしてんのは勝手だが、てめェは刀を取り戻したのかよ」
「あァ? なんの用だクソコック」
わずらわしげなゾロの声に苛立ちが募る。
自身のことは棚に上げ、ゾロが女と行動していることに腹が立った。浮気かよと問い詰めそうになるのを抑え、ドフラミンゴに嵌められていた事実を一方的に話していく。
ローが言った、手遅れだという言葉が気になっていた。どうやらゾロの元にはまだ、ドンキホーテファミリーは現れていないようだ。だが、一緒にいるであろう女の子が、部下の可能性だってある。
ゾロはサンジの話を聞いてもうろたえず、不躾に鼻を鳴らした。
「どうせそんなことだろうと思ったぜ。それで、てめェは今まで何してた」
「あ? おれか。おれは…」
まさか、まんまと罠にかかっていましたとも言えず口ごもっていると、ゾロは少女に道が違うと叱られていた。同時に首にしがみつくな馬鹿力! と苦しそうにがなるゾロの声も聞こえ、サンジの眉間には力が入る。一体どういう状況なのだ。一通り想像したが、不毛なだけだと首を振った。
単語の端々から、ゾロが少女とどこかへ向かっていることだけは分かる。どうやら刀を取り戻すことはできたようだが、やはり一緒に行動すべきだった。
サンジは嫉妬深い。仲間は別だが、ゾロが野郎に笑いかけているだけで気に食わないし、相手が女性なら不安でたまらなくなる。ゾロはサンジの女好きを重々承知しているため、たまに喧嘩をふっかけてくる程度で、いくらレディに愛を囁こうともたいして気にかけていない様子だった。
「黒足、立ち止まってる場合じゃないわ。急がないと」
「ああ、ごめんよヴァイオレットちゃん。君が隣にいるのに」
少し走ろうかとヴァイオレットの手を引いた。ゾロのことを考えていると、つい周りが見えなくなる。悪い癖だと反省しながら、今は目の前のことに意識を向けるべき状況だと背筋を伸ばした。
ゾロもどこかを走っているようで、風を切る音や、道を正されるたび急停止するため、靴底で地面を擦る音が聞こえてくる。
「おい、てめェこそ女といるじゃねェか」
「あっ、いやゾロ、これはだな!」
「あなたの手ってとてもきれいなのね。さっき抱かれたときはあまりにも情熱的で気づかなかった」
「ヴァ、ヴァイオレットちゃん!?」
サンジが慌てて立ち止まると、ヴァイオレットはにこりと微笑んだ。目の前で花が咲き乱れたような美しさに、サンジは胸をときめかせる。嘘は言ってないわと耳元で囁かれ、確かにこの手で抱きしめたことを思い出した。腕の中から甘い香りが漂い、それでいて柔らかく、天にも昇る心地だった。
ゾロに何も言えずにいると、不穏な空気が怒りの形相をした子電伝虫から伝わってきた。
「あとで刀の錆にしてやるよ…クソコック」
「なっ、ゾロ! 誤解だ!」
「精々その女に刺されねェように気をつけるこったな。これだけは忘れるな、てめェを刺すのはおれだ」
一方的に断ち切られた会話に、サンジは呆然と立ち尽くした。ヴァイオレットはいたずらに笑いながら、口許を覆っている。そんな姿も素敵なことこの上ないが、ゾロは完全にキレていた。どうやって機嫌を治せばいいのか頭を巡らせるが、ああなったゾロは酒でも折れてくれない。
頭を抱えていると、ヴァイオレットは先程とは違った笑みを浮かべて、サンジの顔を覗き込んだ。
「女に弱いはずが、まさか本命が男だなんて。変わった人ね」
しかも相手は海賊狩りのロロノア・ゾロ。愉快げに歩き出したヴァイオレットの後をサンジは慌てて追う。
あのときは分からなかったけど、今なら見える? 指で作った輪を目元に当てたヴァイオレットに、サンジはあわあわと焦り出した。今頭の中を見られたら、ふしだらどころの話では済まないだろう。ヴァイオレットに嫌われてしまったら最後、ドフラミンゴから守ることもできなくなってしまう。きっと、こうして一緒に歩くことさえ嫌がられる。
ヴァイオレットは冗談、とその手を離し、肩をすくめた。
「でも、なんであんなことを言ったんだい?」
「私に愛を囁いておいて、あなたの表情が全然違ったから…ちょっと妬いたのよ」
「え、あ、ええっ、おれはヴァイオレットちゃんへの想いも本物だよ!」
「本当にダメな男。でも彼はもっと嫉妬してたわ」
愛されてるのね。ヴァイオレットの言葉に、サンジは顔を赤くさせた。
ドレスローザの女は、愛するあまり男の不貞を知ると刃物で刺すほどに情熱的だという。まさか、あのゾロが、あそこまで怒りを露わにするとは思ってもみなかった。今まで目の前で女を口説こうとも、ゾロは精々嫌味を言ってくる程度だった。許容だとか、そういう意味でゾロが目くじらを立てることはないと思えるほどの自負は、サンジにはない。ただ単に、興味がないだけだと思っていた。
ゾロでも、サンジが他の女を抱くのは許せないのだ。ゾロも、嫉妬をしないわけではなかった。刺してくれるほど愛されているとは、刀の錆にされるなぞ、寧ろ本望だ。
だが、まだゾロと離れるつもりは毛頭ない。オールブルーすら見つけていないのだ。それに、ゾロが大剣豪になるのを見届けるまで死ぬつもりはない。
サンジがにやける口許を隠せないままでいると、ヴァイオレットは本当に頭の中を見てやろうかしらと苦笑を零した。

(20130715)


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