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傘の下は晴天なり




延々と雨が降り注ぐ島だと聞いていたが、サンジの視界の先には晴れ渡った青空が広がっている。まるで夏のように暑く、荷車を引きながら額の汗を拭った。だが、例え晴天でも、この島では突然豪雨になることも少なくないという。ナミの言葉を裏付けるように、多くの商店の軒先には傘が売られていた。何十年も前から、梅雨前線がこの島に停滞しているらしい。どういう理屈なのかは謎だが、ずっと梅雨の気候だということだ。
サンジは急いで買い出しを済ませ、船に戻る。ゾロが打ち粉を買いたいと言っていたため、一緒に島へ行こうと約束をしていたのだ。約束と言うよりは、迷子捜索の時間を省くためと理由をつけて、無理矢理着いていくことにした。久しぶりにゾロと二人きりで過ごせるチャンスを、みすみす逃すサンジではない。念のためとナミに傘を持たされて、ゾロと一緒に再び島へ降り立った。ゾロは面倒くさそうに傘を持ち、石突を地面に引きずりながら歩いている。

「ハラマキにでも差しとけば? 四刀流になっていいんじゃねェの」
「アホか」
サンジは真っ青な自分の傘を、地面に引きずられているゾロの深緑の傘に当てた。ゾロは顔をしかめたが、それでも傘を引きずることはやめなかった。必要最低限のものしか持ち歩かないゾロとっては、何か手に持って歩くという行為がどうも邪魔くさいらしい。ただでさえ、今は晴天だ。必要がないものを持たされたことが不服なのだろう。
買い出しの際、サンジは鍛冶屋の場所をきちんと確認しておいた。どうやら港とは真逆の、島の外れに店はあるらしい。燦燦と照り輝く太陽の熱が、ほんの少し柔らいだのを感じ取った。空を見上げると、まるでわたがしのような雲が強い風に押され流れている。この天候ならしばらく雨は降りそうにない。特に会話もせず商店街を並んで歩いていると、自転車を無料で貸し出している店を見つけた。確かに傘の存在をうっとうしく感じていたサンジは、あれ乗ってかねェ? とゾロに提案した。島の外れまで、まだ小一時間はかかる。もうログは貯まっているため、サンジとゾロが戻り次第、出航する予定だった。時間を短縮するにもちょうどいい。サンジはゾロの返事を待たず、店の軒先に足を向けた。

「おーい、おっさん。自転車貸してくれ」
「あいよー。あ、お二人さんかい?」
店主は申し訳なさそうに頭を掻き、久しぶりの晴天だから自転車は出払っていて一台しか残っていないのだと言った。それでもいいと自転車を借り、サンジはハンドルに青い傘を下げた。サドルに跨ると、荷台に乗るようにゾロを促す。ゾロは一瞬怪訝そうな顔をしたが、大人しくそれに従った。ゾロが乗るとサンジが乗っていたときより自転車が幾分沈み、タイヤが重みで形を変える。ペダルに片足をかけ、すぐ後ろにいるゾロを振り返った。

「お前な、どっか掴めよ。振り落とされんぞ」
「どっかって、どこをだよ」
「あーもう、こういうときは腹にでも腕回しとけ」
ゾロは首を傾げると、不思議そうに自分の腹に腕を回した。サンジはゾロの不可解な行動に目を丸くする。
「って、お前のじゃねェよ!」
「あァ?」
心底アホだろてめェは! とサンジが呆れて声を張り上げる。うるせェと失態を誤魔化すように怒鳴ったゾロは、やっと理解したのかサンジの腹に腕を回した。先程のゾロの行動を思い出し腹を抱えて笑っていると、早く行けと足を蹴られる。サンジは未だに漏れる笑いを隠そうともせず、ペダルにかけた足に力を込めた。もう片方の足を浮かせ、自転車は悠々と進み出す。強い向かい風を受けるが、サンジにはそんなもの屁でもなかった。次々と道行く人を追い越していく。まるでゾロに抱きしめられているかのような体勢に気づき、サンジは思わず笑みを零した。しつけェぞてめェと怒りを孕んで声を潜めたゾロに、違ェよと上機嫌に否定する。そんなサンジの様子にゾロは眉を寄せたが、頬に落ちた水滴に気づき顔を上げた。空はまだ青々としているが、先程よりも雲の量が増えていた。いつの間にか雲には灰色が混ざり、見た目からして重苦しい。

「やべェ、降り出してきたな」
「あ、店に傘忘れた」
「はァ? 何やってんだよお前。濡れんだろ」
自転車を漕ぐのはやめずハンドルにかけてあった傘に手をやると、サンジは背後のゾロにそれを差し出した。ゾロは手渡された真っ青な傘を眺めたあと、すっかり曇天になった空を見上げた。サンジは本格的に降り出す前にと、自転車を漕ぐスピードを速める。ゾロは強まる雨脚に眉を寄せた。考えたのち、サンジの腹に回した腕に力を込めて、ぴたりと背中に身を寄せる。サンジは突然密着してきたゾロの行動に心臓を跳ねさせると、顔にかかる雨の粒が遮られたことに気づく。視線を上げると、そこには雨の中だとは思えないほどの青が広がっていた。空よりも幾分濃いその色に見入っていると、ペダルを踏み外しよろけてしまう。二人の頭上に傘を広げたゾロは、さっさと漕げと嘯いてみせる。それも単なる照れ隠しなのだとサンジは理解しており、たまらず頬を緩ませた。

(201306 拍手文)


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