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甘く融けだす月が笑う




もぐもぐと目の前の飯を口に運び咀嚼しながら、顔に巻かれた包帯が邪魔だとゾロは顔をしかめた。それを見たペローナが、私の飯がまずいって言うのか!と一人憤慨している。そんなんじゃねェと否定しながら、サンジの飯はうまかったんだなと今更ながら感想を持った。ペローナの飯もうまい。それは確かだ。現に、舌の肥えていそうなミホークも、黙って飯を口に運んでいる。ミホークと同じ飯を囲むなど、奇妙な光景だとゾロは酒を呷った。
三日後にサニー号で。その約束は、二年に延びた。少々ルフィからのメッセージに気づくのに時間はかかったが、どうせあの身体で海を渡るのは困難だった。その間にやれるだけのことはやっておかなければならない。ミホークとの修行によって、ゾロは確かな手ごたえを感じていた。一人では限界があった。片目は失ったが、こうして包帯を巻いていても不便なことは何もない。視界が狭まったとは思わなかった。戦いに支障をきたすこともないだろう。ゾロは飯を一気に掻き込むと、酒瓶を持って立ち上がった。

「ちょっと出てくる」
「ロロノアてめェ! 皿洗いぐらい手伝うのが礼儀ってもんだろ!」
「放っておけ」
ぎゃあぎゃあと騒ぐペローナを尻目に、ゾロは城の外へ出た。適当な場所に腰を下ろし、酒を傾ける。遠目からヒヒが様子を伺っていることは分かったが、もう襲ってくることはなくなっていた。サンジの飯が食いたいと思った。気に食わない野郎だが、飯だけは認めてもいい。あれから一年近く経ったが、サンジの飯の味を忘れることはなかった。そのときはかなりの確率でサンジの顔も一緒に浮かぶ。
スリラーバークで、サンジの脇腹に峰打ちを食らわせた。そのときの倒れゆく男の表情が、ゾロの脳裏から離れない。あんな顔をされれば、さすがに気づく。無駄に突っかかってくる野郎だとは思っていた。視線を感じることも多く、一体なんなのだと疑問に思うこともあった。だが、やっとその意味が分かったのは、サンジの縋るような顔を見た瞬間だった。ゾロは悪態をつきながら乱暴に髪を掻き回し、そのせいでずれた包帯を一息に毟り取った。目の出血はもう止まっている。この姿で戻ればまたペローナに文句を言われるのだろうが、そんなことはどうでもよかった。

気づいているのかいないのか、サンジはゾロに対して何もアクションを起こそうとはしなかった。スリラーバーク以降、時折苦しそうな顔をして身を案じる言葉を投げかけてきたことを思い出す。心配される義理はない。ゾロはただ、腹が立った。

途中ヒヒが、どこから持ってきたのか猪口のようなものを手におそるおそる近づいてきた。酒を分けてやると嬉しそうに飛び上がり、何匹かまた器のようなものを持って並びにくる。そのまま群れに戻っていく姿を見送りながら、よくわかんねェやつらだなと一人ごちた。そこには、サンジのことも含まれている。残った酒を飲み干すと、空になった酒瓶を放り投げた。それから月を眺め、フンと鼻を鳴らす。こんなことをごちゃごちゃと考えているのは割に合わない。どうやらサンジは現状を変える気はないようだったが、それがどうしてか鼻持ちならなかった。それ以前に、自分の気持ちに気づいていない可能性も捨てきれない。何せ、重度の女好きだ。気づいていたとしても、どうせ簡単には認めないだろう。
もし二年経っても変わらないようであれば、そのときは自分からバレバレだと言ってやろうか。その瞬間、相手はどんな顔をするのだろう。想像して、ゾロは気分がよくなるのが分かった。欠けた月が、頭上では煌々と輝いている。

(201305 拍手文)


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