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産声をあげた世界で




宴だァ〜!ルフィがそう叫んだ瞬間、仲間たちは皆、手に持っていた杯を宙に掲げた。そして、乾杯の音頭と共に杯をぶつけ合う。ブルックは見た目には分からないが、にこにこと笑みを浮かべて芝生甲板に広げられた料理を見遣った。新しい仲間たちに次々とおめでとうと言われ、律儀に礼を返していく。

誕生日を祝われるのは、実に五十年ぶりのことだった。そもそも、ヨーキ船長と別れることになってからは、誕生日を祝う余裕などとてもなく、誰かの誕生日を祝ったことも、二日前のウソップの誕生日が久しぶりのことだった。やはり、誕生日を祝うのも祝われるのもいいものだと、ブルックは上機嫌にフォークとナイフを手にする。
一人難破船で過ごしていた頃は、日付の感覚など当になくし、誕生日という概念すら忘れていた。新しい船の仲間たちは、まだ仲間になったばかりのブルックを、それでも全力で祝ってくれる。口の周りをべたべたに汚しながら、ブルックは目の前のごちそうを頬張った。美味しいですねえ、楽しいですねえと、幾度となく呟く。

「最高だろ?」
夜だというのに、太陽のような笑みを浮かべる船長に何度も頷く。きらきらと希望に満ち溢れるこの場所は、ブルックには少し眩しすぎるほどだ。スリラーバークでもあれほど盛大に宴をしたあとだというのに、ブルックが仲間になったお祝いも兼ねているから、たくさん祝ってやるんだとルフィは笑う。ブルックの皿の上に乗った肉を前に、涎を垂らしながらも必死で我慢している姿から、その想いは充分伝わってくる。だが、ブルック以外に容赦する気は到底ないのか、隙を盗んで、ルフィはウソップの肉に手を伸ばしていた。

テーブルの上の料理もほとんど姿をなくした頃、サンジが巨大なケーキを抱えてキッチンから出てくるのが見えた。ブルックは歓声を上げ、手にしていたバイオリンをテーブルに立てかける。暗闇の中、ろうそくの火だけが浮かび上がり、その灯りに照らされる骸骨の姿を見ると、ウソップとチョッパーはお前ちょっと怖ェぞとブルックをからかった。ブルックはヨホホ、と声を上げながら、ハッピーバースデーと歌う、仲間たちの声に耳を傾ける。仲間が奏でる音楽というものは、やはりいいものだ。ろうそくの火を吹き消したと同時に、一際大きく歓声が上がる。おめでとうと声を張り上げたルフィの横で、ゾロはうつらうつらと船を漕いでいた。おぼろげな瞼を擦りながら、それでもおめでとうと告げられ、ブルックは礼を返す。

「ゾロ、ケーキだぞ」
「んー…」
「ほら、あーん」
ゾロは今にも眠ってしまいそうで、酒瓶を腕に抱えながら両目を閉じている。それでも大人しく口を開けたゾロの口内に、ルフィは切り分けられたケーキを丸ごと突っ込んだ。もぐもぐと口を動かすゾロを確認して満足げに笑うと、ルフィもサンジがかなり大きく切り分けたケーキを食べ始める。

「仲良しですねえ」
「にししっ、おう!」
満面の笑みを浮かべたルフィに続き、ブルックもケーキにフォークを刺し、口に運んだ。生クリームがほろほろと口の中でとろけていく。思わずほっぺたを両手で覆いながら、美味しいですー!と声を上げた。そうだろ?と絶対の自信を持ってはにかむサンジに今日何度目かも分からない礼を言う。おめでとうとありがとうを繰り返し聞いたり告げたりすることが、こんなに幸せなことだったとは、一人になってみないことには気づけなかった。五十年、悪いことばかりでもなかったと、今になってそう思える。隣の船長に視線をやると、ケーキのおかわりを要求しながら、ゾロの口元についたクリームを舌を出して舐めとっていた。そのまま、キスをするように、はむっとゾロの唇を啄ばむ姿を見て、ブルックは目を丸くする。ゾロは半分眠っているのか、抵抗する素振りは見せない。

「あのー…お二人はもしかして」
「こいつらいつもこうだから、気にしちゃダメよブルック」
「あらァそうだったんですね〜! 全然気づきませんでした、ヨホホ! ところでナミさん、私誕生日ですし、パンツ見…」
最後まで言葉を言い切る前に、見せるかあ!という怒鳴り声と共にナミに四角い箱を投げつけられた。額に思いきりぶつかったそれを手に取ると、それはきれいにラッピングされたプレゼントだった。ブルックは額をさすりながら骨身に沁みますね〜といつものスカルジョークを飛ばす。ナミに礼を告げると、それを合図に仲間たちから次々とプレゼントを渡された。たくさんのプレゼントに囲まれて、再びバイオリンを手に取るとその喜びを歌にして仲間たちに教える。

バイオリンの心地よい音色を聞き、すっかり睡魔に負けてしまったゾロはルフィの肩を枕に寝息を立てていた。ルフィは未だに大騒ぎしながらも、ゾロが崩れ落ちてしまわないよう、しっかりと肩に腕を回している。ブルックは、自らを犠牲にしてルフィを救おうとした、ゾロの姿を思い出した。恋はもう、五十年以上していない。私ももう一度恋ができるだろうか。しかしこんな姿では、愛してくれる女性など、見つかるはずもない。羨ましいと、二人の姿を見つめ、ぽつりと呟いた。騒ぐ仲間たちにブルックの声は届かなかったが、隣のルフィには聞こえたのか、突然腕が伸ばされてぐっと引き寄せられた。ゾロと同じように無理矢理肩に頭を預けさせられる。ルフィの顔を見上げれば、にししっと笑みが返ってきた。

「温かいですね、ルフィさん」
体温を感じる皮膚などないはずなのに、確かにルフィは温かかった。不思議だと、ブルックは目を閉じる。誕生日おめでとう、仲間になってくれてありがとう。なんの飾りもない言葉を直球でぶつけられて、こちらこそ仲間にしてくれてありがとうと、また礼を返す。こんな姿の己を気味悪がることなく、出会ってすぐ仲間に誘ってくれた。やはり不思議な人だと、ブルックは笑みを零す。また身体がぽかぽかと温かくなる感覚に、なぜか目頭まで熱くなった。

(20130417)


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