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わるいむし




(699話から)


サンジはグラスを握り締めながら、イライラと組んだ足を揺らしていた。あの胸くそ悪いガキが、仲間ですら一度たりとも入れてもらったことのない、あの秘密の花園で、ナミさんやロビンちゃんと共に眠っている。こちらに視線を向けて勝ち誇ったような笑みを浮かべたモモの助の顔を思い出すと腸が煮えくり返る思いだった。今ごろまた、あの豊満な胸に顔でもうずめているのではないか。そう思えば、心配で眠れやしない。正直羨ましい。そんな本音は胸の内に秘め、サンジは一息にグラスの中のカクテルを呷った。

「それにしても許せん! あの剣士!」
「あんだって?」
同じく眠れぬ夜を過ごすワノ国の侍にサンジは視線を向ける。忌々しげに顔をしかめた錦えもんに、一体なんの話だと先を促した。錦えもんも息子であるモモの助のことでイラ立っているのだと思っていたが、どうやらそれだけではないらしい。すると錦えもんは、おぬしたちの仲間の剣士のことだ!と声を張り上げて湯飲みをテーブルに叩きつけた。そこでサンジは、夜食のピザを作り終えた頃、錦えもんがゾロ相手に斬りかかっていたことを思い出す。そういえばあれはなんだったのだと、なんとはなしに顎ひげを撫でた。

「あの男、我らが英雄であるリューマの刀、秋水を持っていたでござる」
墓を荒らしたのはあの男に違いないとますます眉尻を上げる錦えもんを尻目に、サンジは煙草に火をつけた。おれも詳しいことは知らねェが、もらいもんだって言ってたぞと一応フォローを入れておく。しかし、完全に頭に血がのぼっている錦えもんの耳には、サンジの言葉が入ることはなかった。あの男もきちんと説明してやればいいものの、どうせ面倒だったのだろう。だからすぐ誤解されんだよ、目つきも悪ィし。サンジはそんなことを思いながら、口をすぼめて天井に向かって煙をくゆらせた。

「おぬしらには世話になったが、あの男だけはどうにも解せぬ!」
「おー、そりゃ同感。おれもあいつだけは気に食わねェな」
「やはりそうであったか!」
どうりで一人だけ雰囲気が違うと思っていたと、錦えもんも勢いよく茶を啜った。そもそもあの男は目つきが普通じゃない。人斬りの目だ。散々な言われようのゾロを、まァとにかく墓を荒らすようなやつじゃねェよとサンジは笑った。そもそも、新世界に入ってからそれほど時間は経っていない。ワノ国にだって、これから行くところだ。さすがの錦えもんもそれには納得したが、それでも秋水は返してもらうと意気込んでいる。

「それにしてもおぬし、気に食わないという割に随分あの男の肩を持つでござるな」
「そういうわけじゃねェ、おれは事実を言ったまでだ。だが、お前があの剣士を嫌うのは大歓迎」
「むむ。仲間が嫌われて喜ぶとは、理解に苦しむ」
そう言うと、錦えもんは腕を組んで首を傾げた。クソ剣士の悪口を振ってきたのはお前だろうがと、サンジは心底楽しそうに喉を鳴らす。そんなサンジの様子に、錦えもんはますます解せぬと眉をひそめた。仲間である剣士のことを嫌っているのかとも思ったが、それにしては穏やかな顔をしている。それどころか、男の話をするサンジの顔はとても楽しそうだ。うむ、と先程サンジがしたように錦えもんは顎ひげを撫でるが、疑問に対する答えが出てくることはない。

「一体どういうことでござるか」
「変な虫がつく心配がねェ、ってこった」
「なぬっ!? おぬし、重度の女好きと見受けておったが、男色であったか!」
「アホかァ! 気色悪ィこと言ってんじゃねェ!」
おれはこの世の何よりも女が好きだ!と声を張り上げたサンジの勢いに押され、錦えもんは渋々頷いた。確かに、今までの男の行動を振り返ってみても男色の気があるとは到底思えない。それならばますますワケが分からないと錦えもんは唸った。

「ただ! あいつだけは別なんだよ!」
「や、やはりおぬしだんしょ…」
「だーっ、違うっつってんだろ! でもてめェ、クソ剣士に惚れたりしやがったらタダじゃおかねェからな!」
錦えもんに向かって吸いさしの煙草を突きつけて凄んだサンジは、それだけ言うと満足げに椅子に仰け反り返った。だからそれを男色と申すのではないだろうか。錦えもんの頭にはそんな言葉が過ぎったが、あまりに必死なサンジの様子に口をつぐんだ。拙者は妻子持ちであるが故、そのようなことは決してござらん。釣られたように真剣に返答し、外の世界は解せぬことがあまりにも多すぎると錦えもんは残りの茶を啜った。

(20130326)


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