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素晴らしき哉、恋




ブルックがリフトからつまみを受け取り、それらをテーブルに突っ伏しているフランキーを避けて並べていく。フランキー自慢のリーゼントは、今はへにゃりと力なく垂れてしまっていた。それを見兼ねたゾロが無言でコーラを差し出してやっている。おれはスーパーダメな男だァ、そう叫んでフランキーはコーラを受け取ると一息に飲み干した。

「フランキーさん、明日はお誕生日なんですから、明るくいきましょう!」
「だがおれは明日のことを思うと、不安で眠れねェのよ!」
コーラを飲んでもいつものように決まらないリーゼントに、フランキーはますますうな垂れてしまった。ゾロはそんなフランキーを前に我関せず、好物のつまみを独り占めしながら酒を呷っている。ブルックはどう元気づけたらいいものか考え込んだ。こんなときに限って、気の効いたスカルジョークが思いつかない。あと数時間もすれば、フランキーが一つ歳を取る。だが、明日の主役であるフランキーはこんな状態だった。

「んだよおめェ、まーだうじうじしてんのか」
「うるせえぐるぐる」
仕込みを終えたサンジがアクアリウムバーへ顔を出すと、フランキーを見て呆れたような顔をしてみせた。そのままゾロの隣の椅子へ腰をかける。フランキーは力なく悪態をつくばかりで、うじうじしながら新しいコーラに手をかけた。おれはスーパーダメな男だと、もう一度同じことを言う。サンジはゾロの手の中からボトルを奪うと、一口飲んで視線をフランキーへ寄越した。

「たった一言じゃねェか。いい歳したおっさんが今更何うじうじしてやがる」
「今までとは勝手が違ェんだ! そういうおめェは簡単にこいつに告れたって言うのかよ!」
「…こっちに振るな」
親指を立てて、フランキーは隣のゾロを指さした。迷惑そうに眉を寄せたゾロとは対照的に、サンジは慌てたように椅子から立ち上がる。今それは関係ねェだろうが!そう怒鳴ったサンジを挑発するよう、フランキーはサングラスを額に押し上げた。にやりと口端を上げ、どうせてめェもうじうじしてたんだろうがと、つまみのチーズを口に放り込む。ブルックは楽しそうにその光景を眺めながら、青春ですねえと紅茶を啜った。さすが年の功と言うべきか、ブルックは何があろうともいつも飄々とした態度を崩さない。

「男と女じゃ口説く勝手が違ェだろ! ましてやこいつは筋肉だけが取り得のただのアホだぜ!」
「ぶった斬られてェのかてめェ!」
掴みかかる二人をブルックが宥めると、フランキーが深々とため息を吐いた。
「こっちだって、相手は何考えてんだか分かんねェ謎だらけの女だぜ…」
「悩むぐらいなら告白なんざしなきゃいいだろ」
それまで決して口を挟んでこなかったゾロが、つまみを口いっぱいに頬張りながら面倒くさそうに言った。そのあとはもぐもぐと、熱心につまみを咀嚼している。そんなゾロを見つめるサンジの視線の柔らかさに気づき、ブルックはヨホホと小さく笑みを零した。たまに、フランキーに同じような視線を向けている相手がいることにも気がついている。だが、そのことについては言及すべきではないのだろうと、ブルックは自分より随分年下の男たちを鷹揚に眺めた。

「そういう問題じゃねェ。どうしようもなく、切羽詰まっちまうもんなんだよ」
惚れた相手を前に愛も囁けねェなんて、気が狂っちまいそうになる。背もたれに肘を乗せて、天井を見上げながらサンジはゆっくりと煙草の煙をくゆらせた。フランキーはその通りだと大きく頷いたが、考えようによっちゃ、こいつァ今すげェ告白をしたんじゃねェのかと眉を上げる。当のゾロはボトルから口を離すと、そういうもんなのかと首を傾げていた。こりゃあ相当苦労したはずだと、フランキーはサンジのことを心底不憫に思い、目尻に浮かぶ涙を拭った。

「伝えてみないと、案外分からないものですよ。フランキーさん」
骸骨なのだから当然だが、読めない表情でブルックはカタカタと骨を鳴らした。フランキーはコーラ片手に立ち上がると、覚悟決めたぜ兄弟!とサンジに向かって親指を立てる。堂々とした発言とは裏腹に、足取りはひどく覚束ない。巨大な体が今はとても小さく見えた。バーを後にしたフランキーの背中を呆然と見送ったあと、あいつ海に身でも投げるんじゃねェか、とサンジがぽつりと呟いた。



「あー…悪ィな、ニコ・ロビン」
「いいのよ。話って何かしら?」
「プレゼント、あああ、ありがとな!」
バカ押すなって!小声でブルックを睨みつけたサンジに、ゾロはなんでおれもと不満げに酒を呷る。物陰に隠れながら、三人はフランキーとロビンの様子を伺っていた。主役が姿を消してもルフィやウソップの騒ぐ声が芝生甲板から聞こえてくる。二人の話している内容までは聞き取れないが、笑い合っている姿を見ていい感じじゃねェかとサンジが小声で呟いた。

「まっ、おれはちっともあの二人が上手くいけばいいなんて思ってねェけどな! フラれちまえフランキー!」
ロビンちゃんがあいつに取られるなんて許せんとサンジは手を組んで祈り出した。必死なサンジの様子にゾロは喉を鳴らしている。それは素直じゃねェなァと笑っているように見えた。恋っていいですねえ。ブルックは微笑んで、フランキーに視線を戻す。
フランキーはロビンを前に、昨夜頭の中で何度も繰り返した言葉を告げようと必死になっていた。例えフラれたとしても、格好よく立ち去る姿までシュミレーション済みだ。だが、いざ相手を目の前にするとどうしても勇気が出なかった。奮い立たせようと拳をきつく握り締める。

「うおー! スゥーパァー!!」
今日はリーゼントもばっちり決まっている。気合を入れるためにいつもの決めポーズを繰り出すと、ロビンへ向き直った。そんなフランキーの様子を、サンジとブルックは固唾を呑んで見守っている。そんな中、ゾロはやはりたいして興味もなさそうに、空になったボトルを持て余していた。突然のことに首を傾げたロビンは、困ったように頬に手を当てた。

「おめェが好きだロビン!」
搾り出すようにフランキーが告げると、ロビンは驚いたように目を丸くした。ついに言ったと、フランキーは息を呑む。ロビンの反応を待つ間、たった数十秒だったが、どうしてかそれが数時間にも感じられた。
「ありがとう。私もあなたが好きよ、フランキー」
お誕生日おめでとう。満面の笑みを浮かべながらそう続けられて、フランキーは溢れる涙を我慢できず、おいおいと泣き出してしまった。背を向けているロビンの表情は分からないため、突然泣き出したフランキーにサンジはぎょっとする。大丈夫かよ、と後ろからゾロの両肩を掴んで身を乗り出した。

「元々心配することもねェだろ。ロビンが誰を好きかなんて見てりゃ分かる」
「あら、ゾロさんも気づいてらしたんですか」
「はァ!? ちょっ、おめェらそれどういうことだ!」
やれやれと立ち上がったゾロは、ブルックと目を合わせて笑った。どうやらお祝いすることが一つ増えたみたいですね。ヨホホと特徴的な笑い声を上げながら、ブルックとゾロは芝生甲板へ向かって歩き出してしまう。サンジも慌ててそれに続くと、一度フランキーを振り返った。笑いあっている二人を見て、小走りで芝生甲板に向かう。

「あっ、おいちょっと待てェ! おめェロビンちゃんの好きなやつには気づくくせに、なんでおれんときはああなんだ!」
「うっせェ! てめェは分かりづれェんだよ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ出した二人を横目に、ブルックは恋は盲目とは上手い言葉ですねと一人ごちた。階段の前に立てかけてあったバイオリンを手に取ると、お祝いと恋の音楽を奏で始める。
「いやあ、恋って素晴らしい! 久しぶりに胸がときめいてしまいました! あ、私ときめく心臓ないんですけど」
ヨホホホホ、とブルックが高笑いしていると、何はともあれめでてェとサンジに肩を組まれた。クソおめでとうフランキー!そう声を張り上げたサンジに続いて、芝生甲板にいた仲間たちも同じようにフランキーを祝う言葉を告げた。

(20130309)


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