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砂糖菓子モンスター




鼻歌混じりにボールを抱えて、中のメレンゲをかき混ぜていく。しゃかしゃかと軽快な音を立てる泡だて器をすばやく動かし続ければ、次第にメレンゲに角が立ちはじめる。今日のおやつはシフォンケーキだ。普段甲板に出ていることが多い仲間たちだが、外が猛吹雪なこともあり、珍しくラウンジに集まっている。キッチンで火を使っているから、確かに他の部屋に比べたら温かいだろう。それでも寒いことには変わりなく、それぞれきっちりとコートを着込んでいる。不寝番だったため朝飯時に見かけたっきりのゾロは昼飯にも起きてこなかった。まだ男部屋でぐーすか寝ているのだろう。寒くないようきちんと毛布を被っているだろうか。まるで母親のような心地でゾロの身を案じた。

「上機嫌ですね〜サンジさん!」
トイレから戻って来たブルックに温かい紅茶を補給した水筒を渡してやる。カウンターには絶世の美女二人。そりゃあ上機嫌にもなるだろう。テーブルに集まって暇つぶしにトランプをやっている男共をちらりと見遣ってから、型に生地を流し込む。腹が減って死にそうだとテーブルに突っ伏しているルフィを宥めようと、フランキーが大事なコーラを分けてやっている。生地を入れた型を何度か持ち上げては落とし、丁寧に気泡を取り除いていく。味はプレーンと抹茶の二種類だ。温めておいたオーブンにそれらを入れると、すぐにナミさんとロビンちゃんにコーヒーのおかわりを用意する。

焼きあがりを待つ間、今度は生クリーム作りに取りかかる。氷水を用意していると、ナミさんが生クリームがなくてもサンジくんのシフォンケーキはおいしいわよ、と真っ白で何も見えない窓の外に視線を向ける。身を案じてくれるナミさんに感激して礼を言うが、賞味期限が近づいてきた生クリームを使ってしまいたいんだと続けた。本当は、ゾロが生クリームの乗っているシフォンケーキが好きだからだとは言えなかった。美味いだなんて気の利いた台詞は一度たりとも言われたことはないが、以前同じものを出したとき心なしかゾロの表情が緩んだように見えた。

「お熱いわね」
「ほーんと、ちょっとでもこの寒さどうにかしてくれるならいいんだけどね」
ゾロのことを思い出してるときのサンジくんの顔ってすごく分かりやすいのよ。ナミさんにそう教えられて、顔から火が出る思いだった。あのとき、シフォンケーキを食べたゾロよりももっと、緩みきった顔をしているのだろう。

よだれを垂らしながらオーブンに張り付いているルフィを警戒しながら、手早く生クリームを泡立てた。ババ抜きをしていたはずがルフィが空腹のあまり棄権したため、今はウソップとフランキーでどれだけ高いトランプタワーを建てられるかを競っている。二人に挟まれながら、チョッパーはすっげェと目を輝かせていた。ブルックは応援ソングと題し、ギターをかき鳴らしている。全く騒がしいなと苦笑を零す。そして、外は相変わらずの猛吹雪だ。

チンッと焼きあがりを告げる軽快な音が響いたと同時にオーブンの扉を開けようとしたルフィを慌てて蹴り飛ばす。全く、油断も隙もあったものじゃない。それでも尚飛びかかってこようとするルフィをぐいぐいと足で引き離す。一通り給仕を終えて余ったおやつを手にゾロを起こしに行こうとしたが、あまりの強風におやつが飛ばされかねない。まるまる一つくれてやったシフォンケーキを頬張っているルフィを見て、今の内だとダイニングをあとにした。あまりの寒さに肌がじりじりと痛む。革靴では進みにくい雪の上を、男部屋まで一気に駆け抜けた。寒ィと悲鳴を上げながら男部屋に駆け込んで、ゾロが眠っているボンクの脇に向かう。

「ゾロ、そろそろ起きろよ〜」
ロッカーからコートを取り出して、ゾロの肩を優しく揺さぶる。わずらわしそうに眉根が寄せられるが、眉間のシワさえも愛おしいとそこに唇を落としたくなってしまう。なかなか起きないゾロを前に、そろそろルフィが自分のおやつを食べ終える頃合いだと焦りが募る。無限の胃袋を持つ船長に目の前にある食い物に手を出すなと言う方がムリな話だ。起床用のベルでも鳴らしてやろうかと思ったが、毎朝あの大音量のベルの音でも起きないゾロ相手には通用しないだろう。


「ったく、いい加減起きねェとちゅーしちまうぞ」
ボンクの脇にしゃがみ込むとゾロの顔を至近距離で覗き込んだ。そう告げた瞬間、ぴくりと震えたゾロの肩に目を見張る。毛布に包まれているその身体が強張ったのが、直に伝わってきた。ぎゅっと目を閉じているせいで、眉間にはますます深いシワが刻まれている。そんなゾロの姿に喉を鳴らすと、なんてかわいいのだと宣言通り唇を寄せた。

「おはよう、ダーリン」
罰が悪そうに目を開けたゾロの左目の傷を慈しむよう唇を落とした。くすぐってェと身をよじったゾロの頬を覆って、またキスをする。ゾロの唇は、まるで生クリームのように柔らかく甘い。理性なんてとうに吹き飛んで何度もゾロの唇を啄んでいると、ダイニングではルフィがきれいにおやつを平らげてしまっていた。

(20130111)


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