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いとでんわ




「ゾロ、これ持て!」
「あ?なんだこれ」
突然ルフィに手渡された紙コップを見つめ、首を傾げた。コップの底につけられた赤い糸を指に絡めると、足元に糸の束ができていることに気がつく。その糸の行く先を視線で辿れば、どうやらルフィの持っているもう一つの紙コップの底と繋がっているらしい。

「すっげーんだぞ、コレ!」
ウソップが作ったのだと身振り手振りを加えながら必死で説明をするルフィを、フォアマストに背中を預けながらぼんやりと眺める。昼寝中に無理矢理起こされたせいでまだ覚醒していない脳はルフィの説明を全て聞き流した。
うつらうつらと船を漕ぎながら重たい瞼を擦る。それでも必死で起きていようと大きく欠伸をしたとき、説明を終えたルフィは満足げに笑うとマスト横の階段を駆け上がっていってしまった。全て耳から耳へ抜けてしまい、何も頭に残っていないと遠ざかるルフィの足音に意識を向ける。緩慢にまばたきを繰り返し、足元の糸の束がみるみる内に少なくなっていくのをただ見つめていた。

「もしもし!」
しばらくしてすぐ近くから聞こえてきたルフィの声に、きょろきょろと辺りを見回した。少しくぐもって聞こえるその声は、どうやら手の中の紙コップから聞こえているらしい。そう理解するのに少し時間がかかった。驚きのあまりすっかり目が覚めてしまったとベンチから降りて一つ伸びをする。

「ゾロ〜、もしもーし」
そうして返事しろよぉと不安そうな声を出したルフィに、手の中の紙コップを眺めながら途方に暮れる。返事をしようにも使い方が分からない。こんなことならちゃんと説明を聞いておけばよかったと赤い糸が続く船首を見上げた。何も入っていない紙コップの中を覗き込み、一体どうなっているのだろうと腰に手を当てて底につけられた糸を指で摘んでみる。ウソップも大層なものを作ったものだと素直に関心しながら、なんとなく紙コップを耳元に近づけた。

「聞こえてねェのかなァ」
不思議そうなルフィの声が耳元から直に聞こえ風に頼りなく揺れる糸に視線を向ける。諦めたのか、ただ単に飽きてしまったのか、その言葉を機にルフィの声は聞こえなくなってしまった。しばらく息を潜めてじっとしていたが耳元から紙コップを離そうとした瞬間、小さく聞こえたルフィの声にぴたりと動きを止めた。

「なあなあ、ゾロ」
内緒話でもするかのように小声になったルフィの言葉を逃さないよう、紙コップをギリギリまで耳元へ近づける。

「おれ、お前のことが好きなんだぞ!」
鮮明に鼓膜へ伝わるルフィの声に、思わず手の中の紙コップを握り潰してしまった。火を噴きそうなほど顔に熱がこもるのを感じ、聞こえてきた足音に顔を上げられずにいた。

「どうしたゾロ、顔真っ赤だぞ?」
「おっ、お前が変なこと言うからだろうが…!」
女部屋の前の手摺りから身を乗り出したルフィがきょとんと首を傾げた。するとみるみる内にルフィの顔が赤く染まり、聞こえてたのか!と慌てたように両手で顔を覆ってしまった。こんなルフィの姿を見るのは初めてのことで、思わずうろたえる。いつも自信満々なルフィの姿はどこにもなく、しゃがみ込んで顔を伏せてしまっている。

そんな姿を前にして、ふと息をつくと口端を上げた。もっと早く言えよな、と声には出さず唇を尖らせる。手の中で潰れた紙コップを投げ捨てて、大きく息を吸い込んだ。そうして弾かれたように顔を上げたルフィが、勢いよく飛びついてきたのはそれからすぐのことだった。

(201208 拍手文)


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