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世界が終わる夜に




随分と空が近い。手を伸ばせばすぐに月まで届いてしまいそうだ。
仰向けに寝転んだまま煙草の煙を吐き出すと暗闇の中ぼんやりと白く浮かび上がり、すぐに霧散していく。左手で煙草を摘めば手持ち無沙汰な右手ですぐ隣にいるゾロの手の甲に触れた。指先でそこをなぞれば煩わしいと叩き落とされてしまう。

「ゾロ、かわいい」
喉を鳴らしながらごろんと寝返りを打つと自分の腕をまくらに、ゾロの横顔をじっと見つめる。カンテラの灯が消えてから結構な時間が経っていた。呆れたような視線を向けられて、からかい半分、本気半分で、もう一度かわいいとゾロに告げる。するとゾロは、心底嫌そうに苦虫を噛み潰したような顔をした。

「星を見ろよ」
てめェが言い出したんだろ、とすぐに夜空に視線を移してしまったゾロに素直に従うと足を組んだ。懲りずにゾロの手を握った瞬間、グラスの中で氷が溶けてからんと軽快な音を立てる。何も言わず握り返された手に、思わず頬が緩んだ。

「お前なァ、なんつーかわいいことしやがる!」
信じられねェ、煙草を蒸しながら憤慨しているとうるせェと足を蹴られた。普段ならここで喧嘩に発展するところだが、今日のおれは機嫌がいい。口端を上げて肺一杯に煙を吸い込むとゾロの顔に紫煙を吹きかける。噎せるゾロにフフン、と鼻を鳴らし上体を起こせば足元のグラスに短くなった煙草を落とした。じゅう、と火が消える音がして赤い光が途絶える。

そのままゾロの上に乗り上げると噎せて涙目になっているゾロの目尻を吸い、通った鼻筋に唇を落とす。唇に優しく触れてから首筋を啄み、喉仏に舌を這わせればゾロの身体が震えた。やんわりと肩を押されるが無視を決め込んで胸元に手を這わせる。

「お、おいコック!空!」
「あ?」
突然明るくなった甲板に目を眇めながら顔を上げると、空から大量の星が降り注いでいるのが目に入った。今にもここまで落下してきそうな迫力に目を見張る。ゾロの上から退くとぴたりと隣にくっついて寝転び、唖然としながら空を見上げる。降り注ぐ流星群を絶えず視線で追いながら生唾を呑み込み、震える指先でもう一度ゾロの手を取った。

「まるで、世界の終わりみてェ」
「…ああ」
頷いたのち、でもちょっと怖ェなと照れたようにはにかんでみせたゾロに驚いて目を丸くすると、笑いながら肯定する。このまま世界が終わってしまったとしてもおかしくはないと思うほどの光景だった。今この間、どれほどの星が燃え尽きているのか分からずに一抹の不安が募る。本当にこのまま世界が終わってしまうのではないかと、ゾロの存在を確かめるように繋いだ指先に力を込めた。

「でもてめェとなら、それも悪かねェかもな」
凛と響いたゾロの声を合図にぴたりと流星群は止んでしまった。暗闇に包まれた途端に鼻白んでしまい、ごまかすように顔をしかめる。ゾロの言葉を何度も反芻させながら繋いだ指先を辿ると青白い月が雲に隠れてしまう。愛しさに胸を詰まらせてゾロをきつく掻き抱けば、苦しいと文句を言われた。

(201208 拍手文)


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