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セカンド・クライ




色とりどりの紫陽花が道いっぱいに広がっている。うきうきとその光景を眺めながら歩いていると、紫陽花の葉に乗っている二匹のかたつむりに気づき足を止めた。麦わら帽子を被り、しゃがみ込んだと同時に曇天の空に陰りがさす。

かたつむりはお互いを探すようにのろのろと葉の上を移動しては、忙しなく触覚を動かしている。頬杖をついてじっとそれを見つめていると、空から大きな雫が降ってきて葉の上に落ちた。大きく葉が傾ぎ、元の位置に戻る前にまた雫が落ちる。空を見上げると大粒の雨が降り始めていた。

目を細めるとかたつむりに視線を戻す。打ち付ける雨がうっとおしく感じるが、なぜかそこから目が離せなかった。二匹は一向に近づくこともなく、少しずつ検討違いの方向に移動している。
そんな中、麦わら帽子は雨を防いではくれず、すでに全身ずぶ濡れになっていた。我慢できずにかたつむりの触覚に軽く触れるとそこがひゅっと引っ込んだ。懐かしさににししっと笑みを浮かべると、背後で人が立ち止まる気配がして口端を上げる。ゾロはすぐ隣にしゃがみ込むと同じようにかたつむりに視線を向けた。

「こいつら、目ェないのかな」
「なんでそう思うんだ?」
淡々と言葉を紡ぐゾロの首筋を雨が伝った。そのまま開いた胸元へ滑り込んでいく雨の粒を見て、少し苛立つ。ゾロに言ったら呆れた顔をされてしまうだろうから、口をついてしまいそうになる嫉妬を呑み込んで視線を紫色の紫陽花に移す。

「お互い会いたそうにしてるのに、どこにいるのか分かってねェみたいだ」
大きな雨の粒が足元の水溜まりに落ちた。そこに目を遣れば紫陽花が映り込んでいて、打ち付ける雨のせいでぐちゃぐちゃに色が混ざり合う。左目にまっすぐ伸びる傷のせいでこちらからゾロの表情は分からなかった。何も言わないゾロに不安を感じ、無理に笑顔を作る。


「よくさ、かたつむりに塩かけて遊んでたなァ」
それでエースとサボにかわいそうだって怒られたりしてよ、乾いた笑い声を上げながらそう続けると、ぐっしょりと濡れた麦わら帽子から雨の粒が落ちる。思わず口をつぐみ、笑おうとして失敗した。

雨の音がどこか遠く聞こえる。するとゾロは、一匹のかたつむりに手を伸ばし、葉の上から無理矢理引きはがした。突然のことに目を丸くしていると、もう一匹の目の前にそのかたつむりを置く。嬉しそうに触覚を触れ合わせる二匹のかたつむりを見て、思わずゾロを見遣る。
会えたな、といたずらに笑うとゾロはゆっくりと立ち上がった。


「風邪引くぞ、ルフィ」
手を差し延べられて眩しさに目を眇めると、ゾロの手を取り立ち上がった。胸が詰まるような感覚に一瞬、顔をしかめる。しかし雨に濡れた顔をごしごしと擦るとニッと笑みを浮かべた。

「そうだな、帰るか!」
おれたちの船に、力強く言い放つとゾロの手を強く握りしめる。お互い顔を見合わせると、なんだかおかしくなって二人で声を上げて笑った。

(20120626)


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