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拘束ランデブー




映画一作目から。ネタバレを含みます。




試しに腕に力を入れてみるが頑丈に巻き付けられた鎖はびくともしない。それを引きちぎるのは早々に諦めて、森の中を駆けるルフィの背中に身体を預けた。その間を隔てた刀が背中に食い込み少し痛い。物凄い早さで通り過ぎていく代わり映えのしない景色を欠伸をしながら眺めていると、ルフィが突然立ち止まった。そのせいで勢いのついた碇がまた額にぶつかる。

「てめ、いきなり立ち止まってんじゃねェ!」
「なに怒ってんだ?ゾロ」
何も分かっていないルフィは心底不思議そうに首を傾げた。その姿に怒気を削がれてしまい、痛む額を押さえることも出来ずただ顔をしかめる。なんでもないとだけ告げると、間延びしたため息を吐いた。

「それより腹ァ減った!」
「食ったばっかじゃねェか」
力が抜けたようにずるずるとルフィが座り込むのに合わせて一緒に腰を下ろす。屋台のおでんを食べ尽くし代金が払えなかったせいでこんなことになっているというのに、まだ足りないのかと呆れて言葉が出なかった。

「それにしても動きづれェ」
「しし、でも楽しくねェか?」
「どこがだよ!」
ルフィが肩を揺らして笑うのを背中越しに感じ取り、その振動で三本の刀がぶつかり合って音を鳴らした。真後ろにいるルフィを見ようと限界まで首を反らすが麦わら帽子が視界に入るだけで、当たり前だが表情は読み取れず前に向き直る。

「だってずっとゾロとくっついてられるんだぞ」
「…アホか」
ルフィの言葉に赤くなる頬を隠そうと小さく俯いた。こんな一言で早くなる鼓動が情けないと、そう思う。ルフィからもおれの顔が見えないことは分かっていたが、密着しているせいでますます恥ずかしさが募った。じわりと体温が上がったのはきっとバレているだろう。

敵が現れても戦えねェだろ、なんとかごまかそうと苦し紛れにそう続ければ、ルフィはそれもそうだなァ困ったなとあっけらかんと笑い声を上げた。何も考えていないであろうその姿に脱力するが、ルフィらしいと肩をすくめる。


「せめて刀が取れりゃいいんだが」
そうしたら鎖でも切ってやるのにと両手を何度も開閉させる。少しでも拘束から抜け出せないものかと身じろぐがきつく巻き付けられた鎖はやはりびくともしなかった。鎖と擦れて切れてしまった皮膚に舌打ちをする。おれがこうしてむやみに動くたび、ルフィの身体も傷つけてしまうのだと気づき動きをとめる。

「それなら大丈夫だぞ、ゾロ」
「あ?何がだよ」
「おれが取ってやる!」
ルフィが後ろでなにやら身じろぐと鎖が大きく音を立てる。背後で鯉口を切る音がし、刀が鞘から抜かれたのが分かった。ルフィが何をするつもりなのか簡単に想像がつく。背中合わせにルフィがいるため、逃げることも敵わなかった。
予想通り口に和道をくわえたルフィの首が伸びてきて、呆れて口を開くとそのまま刀を押し付けられる。ルフィの唇が触れ、思わず柄に歯を立てるとルフィは得意げに笑い首を元に戻した。


「あ、でもこれじゃキスしにくいな!」
治まったはずの熱が一気にぶり返し、刀をくわえたまま動けずにいた。不意に触れたルフィの唇の感触を思い出し視線をさまよわせる。すると、また顔を伸ばしてきて驚きに肩が跳ねた。ルフィが刀の柄に歯を立てると唇が触れ、そのまま取り上げられた和道を鞘にしまう。

「よし!じゃ、行くか」
「…お、おう」
ルフィは勢いよく立ち上がり、動揺したままそれに従う。
早く鎖ほどいて腹いっぱいおでん食ってたくさんキスするぞ、と力強く言い放ったルフィに面を食らう。二人で森の中を歩き出し耐え切れず喉を鳴らすと、そうだなと小さく呟いた。

(20120421)


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