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濡れた唇が語る




ぴくり、とゾロの身体が震えた。
すっかり乾いて固まってしまった鼻血の跡を指の腹で拭うと、ゾロは首を振っておれの指を振りほどいた。それでも、張り付けにされている身体では顔を背けることぐらいでしか抵抗できない。

「殺されたくなかったらとっとと失せろ」
頭に巻かれた黒い手ぬぐいから覗く鋭い眸にぞくりと背筋が粟立った。麦わら帽子を被り直しておめェにおれは殺せねェよ、そう言い放つと血に飢えた双眸をじっと見据える。

空気がぴんと張り詰めたものに変わった瞬間、海軍基地に風が吹き込んで土埃が視界を遮った。飛んでしまいそうになる麦わら帽子を押さえつけて、目に砂が入ろうともゾロから視線は逸らさなかった。それはゾロも同じで、やっぱりこいつ欲しいなァと口端を上げる。


「それに、おれは強ェぞ」
風がやむのを待たずそう告げればゾロは不躾に目を眇め、嘲るように鼻で笑った。
ゾロの腹に回る縄に手を這わせると、左耳のピアスが三つ、太陽の光に輝いて眩しさから思わず目を細める。

「てめェ、何が望みだ」
「だからおれの仲間になれって」
わざと痛めつけるように縛られた腕をさすれば、またゾロの身体が震えた。刀を扱うというその腕に散る大小様々な傷口を慈しむように触れていくたび、肩を跳ねさせるとゾロは悔しそうに唇を噛み締めた。飛んできた蹴りを交わし、唯一自由なその足を掴む。

「てめェ…!」
「なァ、ゾロ」
そのまま間合いを詰めるとゾロの鼻先に触れた。じっと魔獣の目を見据えれば、また強い視線を向けられる。
屈することのないそれに、ひどく気分が高揚した。
ピアスがちりりと音を鳴らしたのを合図にゾロの唇に噛み付く。舌を差し入れれば、ゾロの口の中は土と血と砂糖の味がした。なんの抵抗もしてみせないゾロの味全てを拭い去るように舌を吸う。


「お前を飼えるのはおれしかいねェ」
ピアスがまた小さく音を鳴らした。ゾロは驚いたように目を見開いたあと、喉を鳴らして豪快に笑い出す。心底おかしそうなその姿を見て、一緒になって笑った。気を張ったその顔が歳相応に幼くなるのを間近で感じ取る。

「くくっ、そりゃァ傑作だ」
「にししっ、だろ?」
ゾロは未だに喉を鳴らしながら鋭いあの視線でおれを見遣る。途端に張り詰めた空気の中、ゾロは唾液で濡れた唇を舐めるとニヤリと笑ってみせた。

(20120415)


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