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さかなが知らない青




やっと一息ついた頃、ダイニングのソファに腰をかけて煙草に火をつける。舌に馴れた苦みが広がり煙を天井に向けて吐き出すとコツコツと軽快なヒールの音が聞こえてくる。ソファで一度伸びをしてキッチンに戻ると短く伸びた灰を無理矢理灰皿に落とした。
キッチンの扉が開き、ナミさんの姿を確認すると鼻の下を伸ばして愛を囁きながらハートを飛ばす。

「サンジくん」
「はあ〜いナミさん!」
今日のおやつならナミさんの蜜柑を使ったタルトタタンだよ、軽快に続ければナミさんはそれは楽しみねと可愛らしい笑みを零した。

「じき雨が降るわ。テーブルクロス、取り込んだ方がいいわよ」
キッチンを出ていくナミさんにお礼を言い、ついでに酒の補充もしようと食料庫へ向かう。酒瓶の入った木箱を抱えてアクアリウムバーの扉を開く。その瞬間あんのクソマリモめ、と悪態をつき思った以上に減りの早い酒を眺めた。

ワインセラーに酒を並べ、空になった木箱を持って遠回りにはなるが通路を進む。賑わいを見せる生け簀を眺め、今日はどいつを捌いてやろうかと紫煙を吐き出す。するとバルコニーへ出る扉の前に見慣れたマリモ頭が座っているのが目に入り、思わず眉を顰めた。


「グリーンマンがいっちょ前になに黄昏れてやがる」
食われるとも知らず呑気に泳ぐ魚を目で追うその姿に、らしくねェ顔見せてんじゃねェよと口には出さないまま歩みを進めていく。
「ああ?黄昏れてなんかねェよ、ダーツマン」
いつもなら喧嘩に発展するであろうその言葉を軽く否むと不可解そうな顔をされた。ゾロの横を通り過ぎたとき、手に持つ酒瓶を見て思わず蹴りが飛ぶ。それをかわされて、飛んでくる拳を避けると無理矢理身体を割り込ませる。あんな重みのないパンチを受けたところでたいしたダメージもない。

目の前で死に逝こうとした男が驚きで動けなくなっているのをいいことに、何度も唇を吸い舌を滑り込ませてなけなしの酸素を奪う。
その隙に手から酒瓶を奪うと唇を離して口端を上げる。今のコイツじゃおれにだって勝てやしない。

「お前朝昼晩ちゃんと食わねェと一生酒禁止な」
顔を真っ赤にして怒鳴るゾロにもうおやつだから上がってこいと告げるとバルコニーに出る。短くなった煙草を靴底で踏み付けると、自嘲するように笑った。

(201108 拍手文)


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