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青い春




(学パロ)


卒業おめでとう。でかでかと書かれた文字を目で追うと黒板消しを手にする。この教室でバカみたいに笑い、時には勉強し、恋をした思い出が淡く溶けていく。チョークの粉が髪やブレザーに落ちるのも構わずに乱暴に目の前の文字を消した。

すると、突然開かれた教室の扉に意識を向けて近づいてくる男を遠ざけるように窓際へ向かう。履き潰した上靴のかかとが足を縺れさせた。窓を開けるとチョークの粉で白くなった袖口を掌で叩く。白く舞うそれはすぐに雪と紛れていった。

「また迷子にでもなってんのか」
「てめェを探してた」
扉を背に立ち尽くす男へ身体ごと向き直り、高鳴る心臓を落ち着かせようと静かに息を吐く。窓を開けたせいで冷気に満たされた教室は恐ろしいほど静まり返っていた。なにもかも見透かすような翡翠の双眸から逃げるように俯く。


「打ち上げなら行かねェってナミさんにも言っ」
「そうじゃねェ」
話してる途中、凛とした声に遮られてつい顔を上げれば強い視線に射抜かれた。後悔する間もなく春を映し出すような柔らかい翠に吸い込まれていく。それを振り払うようにじゃあなんなんだよ、と早口に告げれば男は面倒臭そうに短い髪を掻いた。
風向きが変わったのか教室に雪が入り込んできたのに気づき窓を閉める。その瞬間男の目から解放されて知らず肩の力が抜けた。

「なんか言うことねェのか。…おれに」
「…何が、だよ」
一息置いて続けられた言葉に思わず肩が跳ねる。動揺を隠しきれないまま震える声を上げ、振り向くことも出来ずただ立ち尽くした。いっそ想いを告げてしまおうか。三年間悩み抜いた結論全てを否定するかのように、そんなことが頭を過ぎる。


「ねェよ、んなもん…てめェなんかに」
今、ここで告げてどうする。どうせ一週間後にはここを出るのだ。そこでゼフに認めてもらえるような料理人になりいつか世界中に、男に、おれの名前が届けばいい。思い出は綺麗なまま残しておくのが一番だ。
男はそうか、と一言感情の読めない声で呟くと教室を出ていった。



窓の結露を拭い雲に覆われた薄暗い空を見上げると、山間の果てに晴れ間が見えた。
明日には雪が止んで、暫くしたら桜が咲くだろう。

「あー、クソ!」
桜が咲く前に華々しく散ってやるのもいいじゃねェか、そう思うと同時に教室を飛び出す。廊下で同じように窓の外を眺めていた男はにやりと口端を上げると、遅ェとうそぶいた。なんて野郎だと唇をわななかせながら、信じられない思いでやっぱり足を縺れさせながら男に近づいていく。


「三年間、ずっとてめェが好きでした」

(20120313)


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