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窒息




埃っぽい安宿のベッドに沈み込み半分眠ったまま男の口づけを受ける。慈しむように触れたあとは、下唇をきつく吸われ口を割り開くために歯を立てられる。美味い飯を作るための要となる薄いその舌が歯列をなぞり執拗に上顎を掬う。息苦しさに身体を退くとゆっくりと舌をなぶるように吸われ、名残惜しそうにもう一度唇に触れたあと解放された。

「みず」
散々喘がされたあとだからか喉が焼けるように痛む。薄く片目を開けると、目の前の男を睨みつけた。ニヤニヤと嘲笑するように口端を上げる姿に舌打ちをして身体を起こす。備え付けの小さな冷蔵庫に男が水差しを取りに行くのを目で追うと、ベッドの周りに散乱した服をかき集めて身につけていく。


「うわっ!」
緊張感のない叫び声が聞こえ、床に落ちていたサッシュを拾い男の元へ向かった。どうしたと殆ど掠れてしまった声に男はねこ、と間の抜けた返事をした。男の足元に身を寄せるようにしている真っ黒の猫を見つけ抱え上げる。

「一体どっから入ってきたんだろうな」
もしかしたら初めからいたのかもしれない。そして随分と人に馴れているらしい。腕の中で大人しく目をつむる猫の頭を男が指先で撫でるとゴロゴロと喉を鳴らしはじめる。おれらと同じだ。唐突にそう告げた男に、何がだと問いかけるのも面倒で同じように猫の顔を覗き込む。薄く開かれた瞳が青色と緑色に輝き男に視線を戻すと、不意にサッシュを手から奪われた。猫の首に巻かれたリボンと同じ色をしたそれは、取り返す間もなくまた床に落とされてボトムに手をかけられる。


「服を着るにはまだ早ェだろ、なァ」
青い瞳がより一層色を濃くし、挑発するように孤を描いた。皮膚が窮屈に張っている左目の傷をねぶるようにして男の眸が動いたとき、猫は気だるそうに欠伸をすると腕の中から飛び出した。音も立てず器用に着地をしてみせる。

「まだ足りねェのかよ。エロコック」
「二年分、たった一日で足りるかよ」
喉仏に噛み付かれ羽織っていただけのコートを脱がされる。競うように舌を絡めあい二人分の唾液を痛む喉に流し込んだ。
クソ愛してる、余裕なさげにそう告げる男の濃くなった顎髭を唇で啄むとそのまま床に押し倒された。扉の前で丸まっていた猫は驚いたのか飛び上がり、暗闇の中でも分かるほど目を光らせる。

左右とも違う瞳の色を見て男と目を合わせると、喉を鳴らしてどちらからともなく唇を寄せた。

(20120222)


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