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そしてまた恋が始まる




触れようと伸ばした手を叩き落とされて呆然と立ち尽くす。二年ぶりだ。おれはずっと、ゾロを焦がれていた。それは普通の感情なんじゃないのかと目の前の男を睨みつける。真一文字に刻まれた左目の傷を見て、ますます機嫌が悪くなっていく。

「たった二年で心変わりか」
煙草に伸ばしかけた手を荒々しくポケットに突っ込むと、下唇を噛んでゾロの反応を待った。二年間どこにいたのか何をしていたのかその傷はどうしたのか、そんな野暮なことを聞くつもりは全くない。内に燻る感情を打ち消すようにトントンと爪先で地面を軽く蹴った。

足元を舞う砂埃に目を細めると、何の反応も返さないゾロに視線を戻す。一瞬だけ揺れた瞳を捕らえてああ、と一人納得した。出航前に会ったスリラーバークの少女を思い出す。彼女がゾロをシャボンディ諸島まで送り届けてくれたのだと聞いた。そりゃあ、男なんかよりレディの方がいいに決まっている。二年、あの子と過ごしてたのだろうか。そして恋に落ちたのだろうか。
それはごく自然なことで二年前のおれ達の関係の方が不自然なものだっただろう。堪え切れず胸ポケットから煙草を取り出すと、最後の一本を指で挟む。



「鷹の目と寝た」

やっと口を開いたゾロの一言は覚悟していたものよりもきつく、思わず煙草の箱を握り潰していた。鷹の目、その名前が頭を揺さぶり胸をえぐる。なんでよりによって鷹の目なんだとわめき立てそうになるのを煙草をくわえることで抑え、左目の傷を思い眉間に皺を寄せた。


「野望は」
「変わってねェよ」
少しでも情けない顔を隠してしまいたくて、ゾロの顔に紫煙を吹きかける。煙そうに眉根を寄せながらも、翡翠は昔と変わらず大剣豪を目指す男のものだった。口端を上げてならいいさと呟けばゾロの眉がピクリと跳ね、そのあとは必死で無表情を取り繕っているように見えた。

「それで、おれは相変わらずおめェが好きなんだけど」
まだ一口しか吸っていない煙草を靴底で踏み付けると、一歩間合いを詰めて返事を促すように精悍さの増したゾロの顔を覗き込む。


「…れも、きだ」
「もっかい」
「すき、だ」
その言葉を噛み締めるように深く息を吸い込んでからゾロを引き寄せると痛いぐらい抱きしめる。ゾロは何も言わずされるがまま立ち尽くしていた。今は強がりでも、二年なんてすぐに取り返してやる。ゾロに、鷹の目に、自分自身に、そう言い聞かせた。

(20120204)


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