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いつの間にかかけられていた毛布を剥いで脱ぎ捨てたままのシャツとボトムを手に取ると、ぽつんと置かれたままのマッチが目に入った。服を着てそれを拾うとカラカラと音を立てて空ではないことを告げる。マッチから連想するのはこの船のコックしかおらず、眉を寄せ少し逡巡してからポケットにしまった。

突き刺すような寒さに、放り出した毛布を手繰り寄せ包まり格納庫の扉を開けた。メリー号は真っ白な雪に覆われていて、ルフィ達が見たら大喜びしそうだと考え静かな船内に首を傾げる。日の位置にまだ早朝だと気づくと、格納庫から甲板へ続く足跡を目で追った。
一歩踏み出す度に小気味よい音を立てながらブーツが雪に沈むことを少し面倒に感じる。

階段を半分ほど上れば甲板に一人立ち尽くし、前を見据える男を見つけた。名前を呼ぼうと口を開くが喉がつかえて声が出ず、銀世界で黒く佇むその姿に目を細める。

白い肌は雪によく映えていて、不思議なことに見慣れた金髪はなんだか輝いて見えた。この場所に足を踏み入れてはいけないような気さえしていると、男は振り向いて驚いたように目を見開いた。

「随分早起きだな。飯ならまだだぞ」
その言葉にハッとしてポケットを漁る。マッチを渡しに来たのにそれを忘れるなんてどうかしてる。マッチを男へ投げようと顔を上げれば、お前が来いと手招きされた。
面倒だと舌打ちをすると一瞬戸惑ってから甲板に足を踏み入れる。男の足跡に添うように、自らの軌跡も雪に刻まれていく。

何をそんなにビビっていたのか、すんなり男の元へ辿り着けばマッチを持つ手を前に突き出した。すると手首を捕まれてぐいと身体を引き寄せられた。手にしていたマッチが甲板に落ちたが、箱の中でマッチが転がる音だけが小さく聞こえ衝撃は雪に吸い込まれたようだった。


「なにつっ立ってんだよ。ビビったじゃねェか」
「て、てめェこそ何やってんだ」
「雪がキレイだったから見てたんだよ」

キレイ、男の言葉が引っかかりただの塵じゃねェかと言えばまあお前はそうだよなァとなぜか嬉しそうに笑われた。今まで雪を見てキレイだと思ったことはない。


「ああ、おれは雪の中に立ってるおめェを見てキレイだと思ったんだ」
今まで感じたことのなかった感情にやっと納得がいってキレイという感情はああいうものなのか、悪くねェなと一人口端を上げる。固まった男の顔を覗き込めばクソ可愛いこと言ってんじゃねェと早口でまくし立てられ、白い頬はみるみる内に赤く染まっていった。


「クソッ、今すぐやりてェ」
「奇遇だな。おれも同じこと思ったぜ、クソコック」
「朝飯に間に合わなかったらてめェのせいだからな」

挑発的に笑う男へゆっくりと顔を近づけていけば、待てないとでも言うように強引に唇に噛み付かれた。

(20120122)


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