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Automne dans l'amour




夜食と酒、それと毛布を手に見張り台へ上がり名前を呼べば白く色づく息が宙を舞った。いつもと変わらないハラマキ姿を見て思わず顔を引き攣らせる。

「お前寒くねェの」
「別に我慢できる」
そう言ってから目を開けたゾロに、結局寒いんじゃねェかと呆れて毛布を投げつける。ほとほと頭のおかしい野郎だと息を吐いた。ゾロの向かいに座り込むと狭い見張り台の上ではお互いの足がどうしても触れ合ってしまい、意識をしないように煙草を蒸しながら夜食を渡す。


「おめェさ、好きな食い物とかねェの」
「ねェ」
「嫌いなもんは」
「ねェ」

ぶっきらぼうにそう答えるゾロに、食わせ甲斐のねェ野郎だと眉を寄せる。それでも美味そうに飯を掻き込む姿をしばらく眺め、フィルターを噛みながら傷はと問えばゾロは怪訝そうに顔を上げた。視線を白塗りの刀に移してから往生際悪くなけなしの紫煙を吐き出す。
おれはまぎれもなくロロノア・ゾロという男に惹かれていた。羨望なのか、それとも焦燥からなのかはよく分からない。

「ごちそうさま」
そのままおれの問いには答えることなくふいに瞼を閉じると両手を合わせた。見た目とはそぐわないその姿に最初は意表をつかれた。思わず上がってしまう口角を煙草を吸うふりをして掌で隠し、空になった皿を受け取る。


「酒はさっきの質問に答えてからな」
視線があからさまに酒に向けられてやはり腕を伸ばしたゾロから酒瓶を遠ざける。コルクに指を置いて酒瓶をぐるりと回しニヤリと笑ってみせると、舌打ちの音が闇の中妙に響いた。

「別に…平気だ」
「ふうん」
下手くそな嘘に失笑すると酒を手渡す。そのときに触れた指先がじわじわと熱を持ちはじめ、思わず足先を引っ込めて膝を抱えた。酒を呷りのけ反る喉元をぼんやりと眺めながら、吸い殻を指で弾き海へ落とした。波に呑まれ一瞬で海の中に消えていく。

波を助長させるように北風が吹いてコートを着ていても突き刺すような寒さに奮え腕をさする。
寒いのは苦手だ。それでもここを離れようとは微塵も思わなかった。


「…コック。おいコック!聞いてんのかてめェ」
新しい煙草に火を点けながら、ゾロの唇から流れていく白い息を目で追っていた。苛立ちを含んだ声音で名前を呼ばれ、ハッとすると何度かまばたきをする。

「あー…悪い」
「てめェが素直に謝るなんて気色悪ィな」
「んだとクソマリモ!」
ついカッとなり怒鳴りつければゾロはクツクツと喉を鳴らして笑ってみせた。その姿にまたムッと唇を尖らせてなんなんだよと眉を寄せれば、おれはお前と喧嘩するの嫌いじゃねェなとゾロはぞんざいに言い放った。

頬に集まった血液や高鳴る鼓動の意味を理解した瞬間、わあっと小さく叫んで顔を覆った。おれがゾロに惹かれている理由は羨望でも、焦燥でもなくただ単純に好きだからだ。
それに気づいたとき、妙に納得してしまったことにくそうと力なく悪態をつく。


「さっきからてめェ具合でも悪ィのか?」
「いやいや、なんでもねェ!」
なんか変だぞといきなり手首を捕まれておそるおそる顔を上げる。すると不機嫌そうに顔を覗かれて思わずのけぞった。煙草の煙を何度も何度も深く吸い込んでニコチンのおかげか冷静さを取り戻していく。

「そういやさっきなんか言いかけてただろ」
なんだったんだと三本目の煙草に火を点けながらゾロに問うと、包まっていた毛布を開いて白い息を吐き出した。

「寒いんなら、入るか」
ぽかんと口を開けて呆けると笑いながら立ち上がる。ずっと触れてみたかった緑の髪を撫で、ゾロの隣に腰を下ろした。

(20111231)


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