好きの反対は嫌い、知ってる。知ってるよ。だからこそ俺は、嫌いな相手って言うのは好きな相手だとも、思う。嫌いなら嫌いで、関わらなければ良い。好きなら好きで、側にいれば良い。そうでしょ?本当に嫌いなら自分から関わる必要無いじゃない。逆に好きなら自分から側に行けば良い。だけどさ、俺はそのどちらとも出来ないんだよね。俺はシズちゃんが嫌いだけど、関わらない、なんて事は無理だから。その理由は相手がこちらを追いかけてくると言う事もあるが、自分が相手に…と言う事もあるのかも知れない。自分でも良く分からないけど。ああでももしかしたらシズちゃんも俺に。だって、本当に俺が嫌いなら、追いかけてくるなんて、さ。
という訳で確認作業。「ねえシズちゃん、シズちゃん、シズちゃん。」試しに俺がシズちゃんと名前を連呼するとシズちゃんは嫌そうに顔を歪めてうるせえ、とそれだけ呟いた。その反応に少し不満を覚え、俺はまた試しにと、相手を煽るような事を言ってみる。なるべく余裕を装って笑い態度も飄々とした雰囲気で、


「シズちゃん、俺女の子と寝た。」
「はあ?」
「ね、悔しくないの?」
「何が、」
「俺の方が経験あるんだよ。シズちゃんはどうせ片手にすら収まっていないどころかゼロだろうね。俺の方が経験豊富。」
「…、つまり何が言いたいんだ?」
「そう言う部分では俺はシズちゃんよりも勝ってる、」
「…………。」
「図星でしょ?」


ふふ、と小さく笑みを零してシズちゃんの反応を見る。俺の予想だとぶちって切れるかと思ったんだけど、シズちゃんが口にしたのは随分的はずれな答えだった。「…まあな、」先程までと変わらず冷淡とした表情で呟く様にそう言った。あれ珍しい、シズちゃんがこんなに簡単に肯定するなんて。普断ならブチ切れて追いかけっこのスタート…の筈なのに、今日のシズちゃんは何だかおかしい、どうしたんだろう。今だ疑問がぐるぐると頭の中で回っている俺は気にせず、シズちゃんはくく、と薄く笑って俺に顔を近付けた。


「…なら、手前が教えてくれんのか?」
「へ、?」


途端、ぐい、と腕を掴まれて引き寄せられる。引かれた身はシズちゃんの胸元までいって掴まれていた手が離された。ぽす、とそのまま倒れ込む様な形で俺の頭がシズちゃんの胸に埋まるのを確認すると、シズちゃんは俺の顎を引いて上を向かせた。


「手前、経験あるんだろ?なら俺に、教えてくれよ、臨也くん。」
「…、…っは?何言ってるのさシズちゃん。さっきのは冗談に決まってるでしょ?馬鹿じゃないの、」
「ふーん、」


形だけ納得したみたいに言いながら口角を釣り上げて、余裕そうに笑うシズちゃん。ああ何その顔、むかつくむかつくむかつく。やっぱ、シズちゃん、嫌いだなあ。嫌よ嫌よも好きの内って言うから、俺もシズちゃんの事何処かで好きなのかも知れない、なんて思って頭の中で適当な理論を並べてみたりしたけど、やっぱ、嫌いだ。大嫌い。


「……シズちゃん、」
「あ?」
「好きの反対は?」
「嫌い」
「大好きの反対は?」
「…大嫌い」
「だよね!」
「はあ?」
「俺シズちゃんが大嫌い!!」


にこ、と満面の笑顔で言ってみせればシズちゃんは「意味分かんねえ」とでも言いたげに怪訝そうな目で俺を見つめた。と、思えば、チッと軽く舌打ちをして背を向けて歩きだしてしまった。どうやら仕事の時間らしい。するとシズちゃんは、ぴた、と歩みを止めてこちらを振り向いた。


「、ノミ蟲。」
「は?なに、」
「さっきから顔赤いからな、」
「…!」


熱でもあるんじゃねえの、それだけ告げるとシズちゃんはまた背を向けて歩きだした。…シズちゃんでも、あんな顔、するんだ。へえ。あんな、俺の余裕を乱す様な笑顔、を。


「…大、嫌い、」


とか一人呟いてみせるけど、俺の脳内はすでにシズちゃんで侵食されていた。








( 大好きなんだよ、気付いて )






















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