※パラレル!なんとなく主従な感じです






「あ、そうだ、ジーノ」
「なに?」

おとなしく服を着せられていた主人が、本日の夕食をリクエストするような気軽さで口を開いたものだから、執事であるジーノは長い睫を瞬き一つ分動かして、主人――達海を見つめる。
もともと、ジーノの父が没落するまでは対等の関係だったからか、ジーノを執事として拾ってからも、達海はジーノに執事らしい言動を強制はしなかった。
そういうとこが好きだよ、とジーノが囁くと、俺もお前のそこが好きと達海が返す、二人はそんな関係。

「また夕食に庶民的なものをって言うのかい?僕のレパートリーにはそういうものはあまり」
「あー、違う違う、それじゃねーの」

ジーノの手によりすっかり上流のものらしい見た目になった達海が、窮屈そうにぱきぱきと肩を鳴らしてから、ジーノを見つめた。

「使用人を拾ってきたから、教育ヨロシク」
「……また!?」
「うん、面白そうなヤツだったから」

なんでもないようにいう主人に、ジーノの眉間に一瞬皺が寄る。この国はそこまで治安が悪いわけじゃないけれど、不届き者も決して少ないわけじゃない。
(キミの価値を一番わかってないのはキミだ)
ふうと息を吐いてから、ジーノはベッドに座ったままの達海を見下ろし、少し低い声をだした。

「あのね…ちゃんと素性は調べたの?キミには財産があるだろ、誰が狙ってないとも限らないじゃない」
「すげー、執事っぽいね、ジーノ」
「ちょっと、茶化してる場合じゃないだろ」

ぐしゃぐしゃと、ジーノはセットした髪をかきあげる。朝の冷たい気温が頬に触れても、頭の中の沸騰はなかなかおさまる気がしない。

「大丈夫だよ、そんな目してなかったし。いろいろ覚えたらジーノみたいに俺の近くを担当してもらいたい……ってジーノ、俺の目を疑ってんのか」
「違うよ、もう……」

達海の声に、また頭がくらくらした。もちろん、執事としての気持ちはあるけれど、今度は、個人的なことで。
(そんな、誰かもわからないヤツに、キミの世話をだなんて)
自分しか知らなかった達海を、誰かにも見せるのかと思うと、悔しさが込み上げる。

「……僕は特別だと思ってたのに」
「……え?あ、それで怒ってたの?…ニヒ、お前は特別だよ。たからああもう、拗ねるなって」

ジーノを見上げていた目を和ませて、達海が体を後ろに倒した。
せっかく整えた髪が、シーツに散る。
それから、未だ不機嫌そうなジーノを楽しそうに見つめた達海は目を閉じた。

「ジーノ、キスして。……変なとこで自信無いし嫉妬深いのな、お前」
「変なとこじゃない。君に関しては、だ。……僕もまいってるんだよ」

困った顔のジーノが達海に触れるだけのキスをすると、そっとジーノの背中に手を回した達海が、唇が触れそうな距離で「もっと」と囁く。
悪戯っ子のような笑顔は、ジーノの機嫌のなおしかたなど熟知している。それを知っていても、逆らえない。
ちらりと時計を見て、主人のスケジュールを思い出してからジーノは苦笑した。
せっかく詰めた首もとをまた緩めるのはもったいない気もするけれど、致し方ない。

「あーあ……キミは僕を困らせる天才だよ、ほんとに」
「それはありがと、優秀な執事さん」

すべては、気まぐれな主人の思うままなのだ。





end

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