かっこ悪いドリが見たいなあ。
少し休憩を取ってGKの練習を眺めていると、隣で同じく練習を見ていた達海がそう呟いたものだから、緑川は怪訝な顔で達海を見つめる。想像もしていなかった台詞に、思わず聞き間違いかと自分の耳を疑った。

「……ん?」
「だから、お前がかっこ悪いとこを見たいんだよ、俺は」
「それは遠回しに褒めてるってことでいいのかな」

相変わらず読めない達海に緑川がとりあえず笑いかけると、その笑顔にますます達海が不機嫌な顔をする。

「年下のくせになー、なんでだろ、かっこいいな…」
「ありがとうございます」
「その顔やめろよ、もー」

どこまでもお気に召さないらしい。仕方ないなあと一歩分、達海との距離をつめた。
選手と監督にしては少し近すぎる距離だが、達海は警戒心のかけらも見せない。
(ここらで少し、アピールでもしておこうか)
ライバルの多い、恋の相手にするにはやっかいな相手を横目でちらりと見つめてから、緑川は小声で呟いた。
耳貸して、達海さん。そう言うと、緑川の身長に合わせてか達海が小首を傾げる。やっぱり幼い彼に笑いながら、緑川は達海にだけ聞こえる声で言った。

「俺のかっこ悪いとこ、ベッドでなら見れるかもですよ」
「……なあにそれ、お誘い?」

じとりと緑川を睨みつけ、達海が腕を組む。ふっと笑って頷くと、唇を尖らせた達海が体ごと緑川にぶつかってくる。よろめきもしない緑川をじとりと睨んでから、達海はぶっきらぼうに呟いた。

「……考えとく」
「え」

返事をする隙も与えず、かといって特に速くもない足取りで達海が他のポジションへと歩いていく。しかし、その背中には確かに動揺の色が残っていた。
(……もしかして、脈アリ?)
同じく緑川が予想外の展開に目を丸くした時、コーチが午前中の練習の終了を告げる。

「……まいった、どうしたもんですかね」

ふう、と長い息を吐いてから緑川は、先程遠ざかっていった背中をゆっくりと追いかける。
その表情があまりにも複雑だったため、最初は拗ねたような顔で振り向いた達海が「変な顔だ」と楽しそうに笑いはじめるまで、そう時間はかからなかった。





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