ぴりっとした痛みに顔をしかめる。この感じは、と思い唇を舐めてみると、血の味。
地味に嫌な冬の風物詩に、椿はため息をついた。

「どした、椿」
「達海さん…、いや、唇が切れちゃってちょっと痛いなあってだけッス」

大丈夫だとひらひら手を振ると、じいっと椿を見つめていた達海が唐突に、ぐっと顔を近づけてくる。

「ほんとだ、切れてら」

言うなり達海は、まるでなんでもないように椿の唇を舐めた。
(……え)
慣れないスキンシップに椿の体が硬くなるが、今回はどうも様子がおかしい。
こうしてからかうときに見せる余裕の笑みを、達海が浮かべていないのだ。逆に椿以上に驚いた顔をしている。

「たつみ、さん……?」
「え、…俺…今何かした?ん、や、したよな、うん、悪い、ゴメン無意識だった」

達海らしくない、しどろもどろな言い訳を聞いて椿の肩から力が抜ける。
(反射的にしたの、この人)
無意識の行動。それは嬉しいような、複雑なような。

「うー…本能で生きないでほしいッス、心臓に悪い…」
「悪いってば、俺もびっくりしたんだからさ…あー…もう」

本当に驚いた様子の達海の頬が赤くなっていく。恥ずかしいのだろうか、冷えた手の平で自分の頬を挟んで達海は変な顔をする。
(珍しい、俺の方が冷静だ)
その手ごと達海の頬を自分の手の平で包んだ椿は、じいっと達海を見つめた。
可愛いのはいいけれど、無防備すぎるのは、やっぱりちょっと困るから。

「さっきの、誰にでもしてるとかは嫌っす」
「ったく、誰がお前以外にするかっての、…んー…駄目だ、今のもなんかこっ恥ずかしい、あー、どーしよ」

あまり目を合わせてくれさえしない達海に笑いかける。
さっきまで冷たかったのに、達海の頬が熱いおかげですっかりあたたまってしまった手を繋いで、椿はこつりと額を達海の額にくっつけた。

「ってことはさっきのは達海さんの願望、なのかな。…キス、したい?」
「違うって、ああもう…あんまり大人をからかうなよ、頼むから……」
「だめ。たまには遊ばせてもらうッス!」

照れ隠しの嫌そうな顔で、熱くなった自分の頬をぺしぺしと叩く達海。
ふふ、と笑った椿は、拗ねたように尖った達海の唇を、自分がされたようにぺろりと舐めたのだった。





end


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -