「どっちがいいのタッツミー、決めてよ」

真面目な顔でそう言うジーノに、達海は腕を組んで言い放った。

「どっちでもいいって何回も言ってんじゃん」
「だから、どっちがいい?」
「強いて言うなら、うまいほう」
「どっちもおいしいよ?」

堂々巡りに達海がため息をつく。さっきからジーノが言っているのは、晩御飯の話。今日はジーノがパスタを作ると言うから「じゃあお願い」と軽い気持ちで言えば、こうだ。
(どっちがいいって…)
ジーノが二つあげたパスタの名前、覚えきれないようなそれを聞いてもどんな味かなんてわからない。
何度もそう言っているのに。

「んー……ジーノが作りたくて食べたい方でいいよ」
「……だって」
「ん?」

しゅん、と肩を落としたジーノの顔を覗き込むと、ジーノは達海の手を握った。

「だってタッツミー、僕の料理食べるの初めてでしょ」
「……うん」
「美味しいって言ってもらいたくてさ」

ぎゅ、と握られる手が少し熱くなる。達海が顔を上げると、ジーノが照れたように笑った。

「君の喜ぶ顔が見たくて」

そこでいつもみたいな王子スマイルじゃなくて、ちょっと情けない笑顔を見せるとこがずるい。
どうしようもなく胸の奥がきゅっとなって、達海はジーノの頭を撫でた。

「ジーノ、……例えば俺が料理を作ったら、それがどんな出来でも食べてくれる?」
「もちろん」
「うん、俺も同じって話」

途端にパアアと顔を輝かせるジーノを見て頭から手を離す。
ジーノは達海の足が浮きそうになるほどその体を抱きしめ、達海に頬擦りをした。

「俺はパスタとか全然わかんねーから、ジーノが作ってさ、俺にどんな味か教えてくれたらいいよ」
「……シェフって呼んでもいいよ」
「ちょーしのんな」

軽く頭を叩いてもジーノはまるでへこんだ様子もない。
ぎゅうぎゅうと気の済むまで達海を抱きしめてから、ジーノはやっぱり照れ臭そうに言った。

「タッツミーはそこで見てて。きっと惚れなおすよ?」
「はいはい」

いそいそと調理を始めたジーノをカウンター越しに眺めながら、達海は小さな声でつぶやく。

「んなこと言われなくても、別に惚れてんだけどな」
「そういうのは抱きしめられる時に言ってよ!」
「……じゃあ聞くなっつの、地獄耳ー」

二人の甘い言葉が、ジーノが立てる調理音に混ざっていく。
カウンターに手をのせた達海を見て、エプロン姿のジーノが、フライパンを持って言った。

「タッツミー、…パスタ、甘くなっちゃったらどうしよう」

至極真面目な。本気としか言えない表情に達海が笑い声を立てると、つられてジーノも笑うのだった。






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