「よーうGMさん」

少し離れていたところで練習を見ていた後藤のもとに、冷たくなった地面を軽く踏んで達海が近付いた。
はあ、と吐かれた達海の息が白くなるのを見て、後藤はぽつりと呟く。

「……すっかり冬だなあ」
「そ。寒い中練習見てんのよ、監督は。……そんで、なんの用?」

わあわあと選手の声が少し遠くで聞こえる。
気合いの入った選手をぼんやり眺めてから目の前の人物を見ると、今の達海はまるであの連中を率いているようには見えない。
(ほんとに寒そう)
赤くなった鼻と頬を見て後藤はぷっと笑ってから、持っていた袋を達海に渡した。

「これ、渡したかったんだ」
「なにこれ、開けていい?」
「開けていいよ」

ん、と頷いて達海ががさがさと袋を開ける。少し緊張してそれを見守っていた後藤だったが、その必要はなかったようだ。
後藤が渡したのは、マフラー。一瞬目を丸くした達海は、少し照れ臭そうに笑った。

「なんで赤なの、後藤」
「それは……チームカラー?多分似合うよ、ちょっと貸して」

少し落ち着いた赤のマフラーを、後藤がゆったりと達海の首に巻く。
首から顎がそれに覆われると達海はなんだか幼く見えた。

「はい、どうでしょうか達海さん?」
「……あったかいです、アリガト」
「よかった」

達海の反応に安心して笑うと、寒さだけでないものに頬を染めた達海が後藤の顔をじっと見て、手を伸ばした。

「ん、達海?」

ぺた、と冷たい手が後藤の両耳を軽く塞ぐ。
冷たいよ、と後藤が言うと、達海は少し真面目な顔をした。

「ごとー、……すーきーだーよー」

唇を読む必要もなかった。
小声の呟きが空気を震わせ、達海の指の隙間を抜けて後藤の耳に届く。

「……達海、聞こえてるけどいいの?」
「ニヒヒ。いいよ、ほんとのことだし」
「んー、よくわかんねえな、達海は」

コートのポケットにいれていたおかげで暖かい手で、後藤は冷たい達海の手に触れる。
まさか監督とGMがこんな関係だとは誰も思ってないだろうし、感づかれるわけにはいかない。
すぐにでも抱きしめてもっとあたためてやりたいのに、そうできない立場が少し歯痒かった。

「寒い中お疲れ様、達海」
「ん」

名残惜しいけれど、耳から外した達海の手を離して、後藤は練習場に目をやる。
「そろそろ、監督が必要っぽいぞ」
「お、そうみたいだな、行ってくる」
「……いってらっしゃい」

ひょこ、とあくまでもマイペースに後藤の手をすり抜けていくいつものジャケット。
少し寂しいけれど、自分の仕事に行かないとと後藤もまた背を向けようとした時、達海はぴたりと足を止めて、後藤に笑顔を見せた。

「ありがと」

にっと笑ってフィールドへ向かう達海の首には赤いマフラーがひらりと揺れる。

「現金だなあ」

遠くなった背中に呟いて、後藤は少し早足で歩きだした。

「あいつの笑顔ひとつ見ただけで、また仕事頑張ろうだなんて、……俺も本当に現金」

ゆるんだ口元は、なかなか戻らない。
それをごまかそうとして後藤が吐いた息は、達海と同じように真っ白くなっていた。






end

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