「……僕、タッツミーって呼ぶのやめようかな」

練習中にジーノがひどく難しい顔をしていたため、何か気になることでもあるのかと達海が話し掛けると、深刻な顔のままジーノは達海の顔を見つめた。

「はあ?……まあそんなことならいいや」

てっきり足が痛いだとか、連携がうまくいかないだとか、そんなことだと思っていたのにと達海はため息を吐く。
くだらない悩みに逆に安心したのだが、ジーノにとってはそうではないらしい。

「そんなことじゃないよタッツミー。……君のことをタッツミーって呼ぶのは、僕だけだったでしょう?」
「んー、まあこの辺ではそうだな」
「だけどね、山形の監督も君のことをタッツミーって呼ぶらしいじゃない。しかも君が許可したって」

ぐっと目と眉を近付けて嫌そうな顔をする王子様。妙に様になるその表情に、やっぱり自分で王子というだけはあるんだなあと思いつつも、達海はジーノがなにを言いたいのかがわからず首を傾げた。

「……もう行っていい?ジーノ。休憩終わりそうなんだけど」
「駄目だよ。当事者がいなくなってどうするの、……あ、そうだ」
一度ジーノに背を向けた達海を無理矢理引き戻し、ジーノは達海のことを呼ぶ。

「猛はどうかな?」
「却下」

ジーノが言い終わる前に達海がばっさりと切り捨てた。そして、今度こそジーノに背を向ける。ジーノは納得のいかないといった顔で達海の後を追った。

「ええ、早いよタッツミー。どうして駄目なんだい?」
「なんとなく。もう練習行くぞ」
「待ってよタッツ……ふふ、猛」

彼の名前を呼べば呼ぶほど、達海の機嫌は悪くなり、グラウンドに向かう足は早くなる。しかしジーノは楽しそうだ。

「ああ煩い煩い、帰れ」
「酷いね。猛……まだ言いなれないけど。ねえ、どうしてそんなに嫌がるの」
「そりゃ、……わっ」

ぐい、と後ろに体を引かれ、バランスを崩す達海。彼をしっかり支えて達海の顔を覗き込んだジーノは、見事な王子様スマイルを浮かべる。

「もしかして、意識しちゃうのかな?」

達海はその顔を嫌そうに睨みつけた。

「……煩い」






end
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