ジーノは苛立っていた。
あまりのオーラに、チームメイトも全く声をかけられない程度には苛立っていた。
怒りのあまり無表情になった顔で、ジーノはじっと一点を見つめる。
(タッツミーはほんとに……無防備で鈍感で天然で)
瞳に映る恋人の悪口を心の中で呟いてから、とうとうジーノはつかつかと歩きだした。
あろうことかさっきまで対戦していたライバルチームの、しかも10番を背負う持田と、なにやら和やかに談笑中の達海のもとへ。
「……タッツミー」
「お、ジーノ……って何、なんか変な顔してんね」
「……ちっす」
バチ、と持田と視線を交わし火花を散らしてから、ジーノは達海に返事をするよりも先に達海を抱きしめた。
急展開についていけずにジーノの胸に顔をぶつけた達海が「わぶ」と変な声を出すが、気にしない。
「今日も可愛いねタッツミー、……ところで今晩の予定なんだけど、もちろん僕の家に連れ帰っていいよね」
「なに言ってんだ、俺は今日の試合の分析っ……とりあえず離せ馬鹿」
「嬉しいなあ、タッツミーの部屋に誘われるなんて」
もごもごと暴れる達海を押さえつけてジーノがキッと持田を睨んだ。
しかし刺々しい声に持田は怯むことなく、納得したように頷いてから笑顔を見せる。
「ああ、そういうカンジ?……へえ……じゃあ達海さんは男もイケるってことか、安心した」
「タッツミーが好きなのは僕だけだ、君は別に気にすることないよ」
バチバチと飛ぶ火花が量を増して、いよいよ誰も止められないまま二人はヒートアップしていく。
当の本人である達海を無視したまま、二人が口を開いた瞬間、ヴィクトリーのバスの出発を告げるアナウンスが響いた。
「はっ、いいタイミングだね。早く行きなよ、僕とタッツミーは一緒に帰るからね」
「チッ……まあいいや、今日は。それに相手がアンタだったらさ、」
一度言葉を切った持田をジーノが勝ち誇ったように見つめると、持田はニッと笑ってジーノの隙をつき達海の尻を撫でる。
「アンタみたいな優男からなら奪うのは簡単そうだ。俺のテクに夢中にしちゃえばいいんだし、ね。……じゃあまたね、達海さん」
「……こんなに怒るのはほんと、久しぶりだよ」
宣戦布告にぎりっと唇を噛み締め、ジーノは去っていく持田を睨む。
視界から持田が消えてからようやくジーノが達海を解放すると、息苦しさに顔を真っ赤にした達海が大きなため息をついた。
「なに、なにこれどういう展開……」
「聞いてた通り。もうアイツに近付いちゃ駄目だよ、タッツミー。君は本当に鈍感だし多分ギリギリにならないと危機感なんて感じないんだから!」
「あー、わかったわかった、わかったってば。あとジーノ、ここ廊下だから……」
ああもうすげえ疲れた、と言って珍しく頭を抱えた達海が、ぴくりと反応する。
「……なにしてんだ、ジーノ」
「消毒に決まってるでしょ、あんなヤツに触られたんだから」
悪びれたような様子もなく、真顔のままジーノが達海の尻を撫でた。
僕がいながらふがいない。許せないよねえほんと。少し高いテンションでジーノが呟くと、達海が今日一番大きなため息をつく。
「……ジーノ、歯ァ食いしばれ」
スパン、といういい音のあとに、少し楽しそうなジーノの悲鳴があがった。
「痛い!ひどいよタッツミー!」
end
ユキ様、ありがとうございました!