達海猛は魅力的な人物である。
心の中で自分が呟いた言葉に、椿は大きく頷く。

「そうだよな…」

清水の舞台から飛び降りる、いや、東京タワーから飛び降りるぐらいの勇気を絞りだしてなんとか達海と両思いになったものの、気を抜けない。
達海が魅力的ゆえ、周りにはたくさんのライバルがいるのだ、と椿は拳を硬く握った。
少しでも達海に釣り合う人になりたい、と貴重なオフの半分を本屋で過ごした次の日。
なるべく男らしく、かっこよくを心がけて達海の部屋の扉をノックした椿に、達海は片眉を上げて言い放った。

「なんか椿、今日ヘンだけど……腹でも痛いの?」

その瞬間、椿はがっくりと肩を落とす。

「い、いえ……」

(全然、効果無かった……)
泣きそうな顔の椿が、うう、と唸ると床に座ったままの達海がますます怪訝な顔でまじまじと見つめてくる。
結局、心配げな視線に耐え切れず、椿が目論みを暴露すると、達海はなんでもないような顔で椿の頭を撫でた。

「……そんなことか」
「そ、そんなことって…でも…俺、達海さんに相応しい男になろうと思って、っ」

へたりと座り込んだ椿のすっかりハの字になってしまった眉に、達海が口付ける。
それから、至近距離で椿と視線を合わせた。
なにもかも見抜いているような達海の瞳に、思わず椿はどきりとし、引き込まれる。

「俺としては、可愛いぐらいでいいんだけど、駄目なの?」
「駄目……ッス」
「そか?」

ふむ、と顎に手をあてた達海の顔に手を伸ばし、今度は椿から達海の頬にキスをした。

「かっこよく、なりたいッス。達海さんみたいに」

少し寒くなってきたからか、冷たい達海の頬に何度も唇を押し当てる。
ゆっくり絡められる指からぴりぴりと微弱な快感が伝わり、それに煽られて達海の耳たぶに軽く噛み付いた。

「ん、ん……くすぐったい。そうやって必死なとこが子犬みたいで可愛いのに…」
「……俺が犬なら、達海さんは猫です」
「気まぐれって?う、わっ…」

どさ、と椿の重さを支えきれず床に倒れた達海の顔に、椿はたくさんキスをした。
ちゅ、と頬や鼻にキスをする度に達海がくすくすと笑う。
ん、と甘い息を吐いてゆるやかに身体を揺らす達海の気配に、椿の身体にぞくぞくしたものが走る。
それに気付いたのか、達海はとっておきの、椿にしか聞かせない声で囁いた。

「つばき、口にはしてくんないの?」

弾かれたように顔を上げた椿。
その顔を満足げに見つめた達海は、頬にあった椿の手をとり、その指をくわえて挑発する。
指にキスをしてから、軽く噛んで、少しだけ赤くなったところを舐める。
視線を合わせながらの達海の行動にどくりと胸が鳴って、椿が熱い息を吐き出すように呟いた。

「……達海さん、って」
「ニヒ、俺タチ悪いよ?そんなのに捕まっちゃったお前が悪いの」

ゆっくりと椿の顔を引き寄せ、達海がキスをする。一瞬で離れた唇を見つめてから、ハッと我に返った椿が声を出した。

「つ、捕まえたのは俺ッス!」

ムキになって言うと「そこ重要なんだ?」と達海が笑う。そんな彼に椿は目を開けたまま口づけた。

「……達海さん、俺の、達海さん」
「椿…っ、…ん……っ、ん…は…」

いつもは緊張してしまって達海の顔を見れないけれど、こうしてみたら、咥内を舐めた時に達海の瞼がぴくりと震えるのも、たまに切なげに眉が寄せられるのもわかる。
たまらない気持ちになって椿が達海の上に倒れ込むと、そんな椿を抱きしめて達海が軽く息を吐いた。

「ふ、……ま、ゆっくりがんばれば?かっこいい男になるまで、気長に待ってやるからさ」

(気長、って)
不安げにに続きを椿が言おうとすると、達海が椿の口を唇でふさいだ。

「俺にキスしてる時の椿、可愛いしかっこいいと思うけど」
「じゃあ、……いっぱいキスさせてください」
「いーよ。ちゅーして椿。俺、椿のものなんでしょ?」

に、と笑った達海に椿は耐え切れず、衝動のままにキスをする。
そして、途端に腕の中で可愛い反応をしてくれる恋人を見つめながら、今はただ溺れていようと、やわらかい唇を甘く噛んだ。





end

サヤ様、ありがとうございました!
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