※注意
椿と達海(25歳ぐらい)がチームメイトです









チームの中で一人だけ、みんなと違う何かを見つめているような人。
そして誰よりも楽しそうにプレーする、サッカーが好きなら、魅せられずにはいられない選手。
椿から見て、達海はそういう人に見えた。
例に漏れずスタープレイヤーに憧れていた椿はいつからかその憧れが好意だと気付き、その思いを達海に告げる。さて思い人はというと、椿が死にそうなほど緊張して言った台詞にさらりと返したのだった。「ああ、俺も好き」と。
そんなふうに始まった、まるで始まるだなんて思っていなかった恋のせいで、椿は今日もまた達海に叱られるはめになっていた。

「椿」
「は、はい」

自室に椿を呼び出した達海が、じと、と機嫌の悪そうな顔で椿を睨みつける。

「俺が拗ねてる理由、わかりますかー」
「わかりません……」

少しだけ年上のはずの彼はこういう表情をするとすごく幼く見えて、そういうところも好きだ。けれども、そんな寝ぼけたことを言っている場合でもないと椿は目を閉じた。
(今度はなんで怒らせちゃったんだろ……?)
理不尽に怒られることに腹を立てるではなく、怒らせてしまったことに段々椿の心が萎んでいく。

「……すみません、達海さん」
「そんな泣きそうな顔すんなよ、もー、俺が悪かったからさあ……ちょっとね」

唇を尖らせたまま達海が話しはじめたのは試合中のこと。
基本的には普通に出来るのに、達海がゴールを決めた時、仲間達が次々に達海の方へ向かう中、椿の足は止まっていた。

「で、お前が決めた時、俺が近づくとあからさまに挙動不審になるしさあ」

避けられてるみたいで、寂しい。
達海が拗ねていたのは意識するあまりそうしてしまう椿の行動にだった。

「すみません……でも」
「でも、なに?」

言いながら両手を広げた達海を、椿はぐっと抱き寄せた。
達海はこうして抱きしめられたり、髪を撫でられたり、ベタに甘やかされるのが好きらしい。
そんな、みんなが知らない達海を知ったのはまだ最近のこと。
だから椿は軽く首を振った。

「でも無理っす、まだ、緊張します」
「俺が好きすぎて?」
「う……っす」

椿がそう言いながら達海の髪を撫でると、達海は嬉しそうに椿に擦り寄る。

「確かに、お前の心臓うるさすぎ……。納得いかねえけど、まあいっか。はやく慣れて」

馬鹿椿、と呟く達海の背をぽんぽんと軽く叩いて、椿は達海をぎゅうと抱きしめた。

「……その」
「ん?」

必死に話しはじめる椿の言葉にこたえるように、達海も椿を抱きかえす。

「自然にするように頑張るっす、だからそれまでは、その、こういう時に好きなだけくっついてください」

いや、くっつきましょう!と決意を込めて宣言すると、椿の肩に顎をのせた達海が笑い声をあげた。

「あは……なんだそりゃ」
「あ、あれ?駄目っすか……?」
「んーん、……椿のそういうとこ、嫌いじゃねーなって思った」

ずるいなあ、と呟きながら、達海が一度椿の腕からするりと逃げ、椿の唇にキスをして笑う。

「そんなんだからつい緩んじゃうな、お前の前では。……なー、椿」
「はい?」
「次は椿から」

キスして。そう言って目を閉じた達海に、椿は頬を染めてへらりと笑った。

「達海さん、好き」

子供みたいなキスをしてからもう一度達海を抱きしめる。
いつか、この人の全部を知りたいなあ。ふわりと笑いながら、椿は達海の頭に頬を寄せた。
もしそんな存在になれたなら、幸せで死んでしまうかも、とちょっと本気で思いながら。





end

わさびさんありがとうございました!
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