想って想ってやまない人がすぐ隣でぐだぐだに酔っ払っていて、意識しない人がいるだろうか。
(いや、いない!……と思う……)
弱気な心の呟きなんて掻き消えるほど、椿の心臓は煩く鳴っていた。
酒の入ったグラスに口をつけ椿がちらりと達海を見ると、失礼ながらいつもしっかりしているとはいえない達海が、ひたすらに笑ったり眠そうに目を擦ったりと忙しくしている。
おまけに、顔が赤い。
(うう)
どうしてこんな席順なんだと椿はメンバーを恨んだり感謝したりしたけれど、本日は飲み会につき。いつも以上に挙動不審な椿の様子に気付くような者はいなかった。

「あれ、……つーばきー、あんまり飲んでないじゃん」

にひー、と至近距離で笑う達海の顔にますます頭に血がのぼる。

「監督……あの、いや、……飲んでるっす」

飲んでるからヤバイんだって。
うう、と言いながら目を閉じた椿を達海は特に気にした様子もなく笑う。
そのうち目の前の達海しか視界に入らなくなって、椿の心がぐらりと揺れた。
(もう、無理)

「……監督!」
「なに、つば……」

つばき、と達海が言い終える前に、椿は達海にキスをした。周りでメンバーがどよめくが、すっかり赤い顔をした二人には届かない。
(やわらかい、そんで酒の味がする)
べしゃりと畳に倒れ込んで、じゃれるようにキスをする。なにが面白いのかキスの間に達海が笑うから、つられたように椿も笑いながら、キスを続けた。
(達海さん、……好きです…)
目を開けると、楽しそうな達海とぱちりと目が合う。
それに満足して、椿は瞼を閉じた。

「……赤崎さん、俺そんなこと、お、覚えてないっす…」
「紛れも無い事実。大変だった……次からは気をつけろよ」

次の日、クラブでは散々からかわれた椿が、真っ赤な顔で練習をしていた。

「……馬鹿だ」

椿は後悔のあまり重いため息をつく。
達海にしてしまったことも、その行為を今、全く覚えていないことも含めて。





end

夏生様、ありがとうございました!
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