「商店街でさあ、売れ残ったらしくて」

ほとんど押し付けられた、と達海が持田にふわふわしたものを渡した。

「ああ…あるあるこういうの。デザイン的にハロウィン終わったら駄目だね、これじゃ」

オレンジのリボンがついた黒い猫耳。わかりやすいハロウィングッズに持田はカレンダーを振り返った。
それからまた達海に視線を戻す。

「で、早く付けなよ達海さん」
「……なんで?」

寝耳に水、といった顔をする達海に逆に持田も驚く。
そういう意図で持ってきたんじゃないのかと思っていたのだが、達海はちょっと面白いモン貰っちゃった、見せびらかそうかな程度の気持ちだったらしい。

「いやいや、俺にみせてくれるんじゃないの、猫耳の達海さん」
「え……、別にいいけどオッサンの猫耳姿見て楽しいか?」


楽しいよ!と持田から思わず大きめの声が出ると、達海は一瞬タレ目を丸くしてから笑った。
それから頷く。猫耳を付けるぐらいは恥ずかしいものではないようで、達海はむしろ面白がっているようだった。

「持田必死すぎ。わかった、わかったって」
「笑うなよ……あ、ストップ。俺が付ける」
「んー」

(……目まで閉じなくても)
キスしちゃいそうだ、と苦笑してから持田は安っぽいカチューシャを、おとなしくしている達海の頭にセットする。
ふわふわした達海の茶色い髪の毛に、真っ黒な猫耳とオレンジのリボンは目立った。

「達海さん、痛くない?」
「大丈夫」
「ん、じゃあオッケー」

カチューシャを指で辿って、形の良い耳にキスをしてから、持田は目を開けた達海としっかり視線を合わせる。


「どう?俺可愛い?……どうなの、そんな顔されてもわかんねえんだけど」
「……腹立つけど可愛い」

達海いわく感情が読めない顔のまま、持田は達海の鼻に口付けた。
普段から猫っぽいとは思っていたが、悔しいぐらいに、少なくとも持田の瞳には、目の前の達海がとても可愛くうつる。

「ニヒ、鳴こうか?」
「そうしてほしいなあ、猫さん。……おいで」

呼ぶと、すぐに達海は持田の腕の中に収まる。その時少しずれた猫耳を持田が直してやると、達海はくすぐったそうに「にゃあ」と鳴いた。

「あーやばい、やばい腹立つ、可愛い、達海さん」
「どっちだよ」
「どっちも」

ニヒヒ、と笑う達海を見つめて、持田は達海の首筋を撫でる。

「持田、くすぐったい……あ、くすぐったいにゃ」
「言い直すなよ、もう」

可愛くて腹立つ、と言いながら持田はとうとう少し頬を赤くした。
滅多に照れない持田の顔を面白そうに眺めて、達海は軽く首を傾げる。

「……で、持田。この耳はいつになったら外していいのかな」
「そりゃもちろん、俺が堪能しつくすまで」

そう囁きながら持田がゆっくり達海を押し倒すと、おかしそうに笑う黒猫が「仕方ないにゃあ」と鳴いた。





end

空華様、ありがとうございました!
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