一人で飲みたい、だけど一人でいたくないときに足を運ぶショットバー。マスターも物静かで、内装の雰囲気も、もちろん味もいい。
(それなりに好きな場所なのに)
「……どうして今日も来るのさ、タッツミー」
「来てもいいだろ、俺の勝手」
「ま、確かにそうだけどね」
はあ、とジーノがため息をつくと、後から来て隣に座った達海もふうっと息を吐いた。
「どうせまた甘いカクテル飲むんでしょ」
「いいじゃん旨いんだから」
唇を尖らせた達海を見てジーノは苦笑する。とても選手と監督とは思えない空気がジーノは好きだった。
(……違う、そうじゃない)
ジーノは、達海が好きだった。
だからこそ、今日も一番聞きたくない話を、聞いてやらないといけないのだ。
「……で、今日はどうしたの」
できる限りいつもの調子でいうと、カランとグラスを鳴らした達海がぽつりと心を零しはじめる。
「後藤がさあ」
話の内容は達海が思ってやまない後藤のことばかりで、その名前が達海の口から出る度にジーノは心の中でカウントをした。そうでもしないと、嫉妬でおかしくなりそうだ。
(聞きたくない)
「ねえタッツミー、そんなに好きなら、好きって言っちゃえばいいのに」
思わずそんなことを呟くと、達海は渇いた笑いを零した。
「言えないからここでお前に絡んでんじゃん」
「……それはそうだけどね」
(言っていれば彼はここにはいないんだから)
これが片思いかあと噛み締めながら、ジーノはなんとなくグラスを回した。
片思いが一番楽しいという人が多いことは聞いたことがあるし、少し憧れてもいた。
なのに、自分も達海もとても幸せそうには見えなくて、この場所にただようのは行き場のない切なさばかりだ。
「タッツミーはずっと想ってるけど、GMは……彼は君を幸せにしてくれるのかな」
ジーノがぽつりと呟くと、達海は隣で一瞬目をふせた。
(タッツミー)
ねえ、いい加減にやめて僕にしなよ。世界一、世界一愛する自信はあるよ。
そんな台詞が喉元まで上がってくるから、ジーノはグラスの中身を喉に流し込んだ。
飲みやすいはずのそれが妙に喉を焼く。
「無理だろうなあ、今更言えねえし、気付かないよ、アイツは」
「……ほんとに馬鹿だね、タッツミー」
「うん、……悪いな、ジーノ」
にひ、と笑う顔が淋しげで、本当の達海に近付けた気がすると同時に、その視線の方向に胸を締め付けられる。
「……馬鹿だ」
(ねえ、せめて君の幸せを願ってあげたいのに、出来ないなんて)
僕も心の狭い人間だ、そうジーノが自嘲すると、グラスからカランと冷たい音がした。
end
とおこ様ありがとうございました!