トリックオアトリート。
持田がそう言うと、すかさず達海が右手を出した。

「ん。言うと思った」
「……うそ、マジ?」

ひらいた手の平に落とされたオレンジのキャンディを見つめ、持田は舌打ちする。
眠い忙しいとぼやく達海を半ば無理矢理に自宅まで引っ張ってきたというのに。
それもこのハロウィンのために、顔には出さないけれどそれはもう楽しみにしていたというのに。

「……達海さんが気付いてるなんて予想外だった」
「おいおい、俺をなめすぎだろ」

シンプルな色彩の部屋に似合わない、光るオレンジをたくさん両手にのせて達海は笑った。
自慢げなその姿だけで少し満足してしまった自分にまた舌打ちをして、持田は達海から飴玉を取り上げる。

「全部もらっとく。あーあ」

いたずらできなくてそんなに残念?とベッドに座って笑う達海を立ち上がり上から見下ろして、素直に頷いた。

「残念……」
「ニヒヒ、ドンマイ」
「ったく、空気読んでよ」

持田がため息をついて達海の横に腰掛けると、「あ」と呟いた達海が持田に手をひらいて見せる。

「なに?」
「飴。食べたいから一個返して」
「……くち開けてくれたら返してやるよ」

拗ねたついでに言うと達海は躊躇いなく口を開けるから、少しだけ毒気を抜かれながら持田は飴の包み紙を破いた。

「はい、あーん」

オレンジの丸い飴を達海の口に入れる時、一瞬唇に指が触れる。
その瞬間の色気に、誘われた。

「ねえ達海さん」

ころころと頬で飴を転がす達海に持田が囁く。

「トリックオアトリート。……飴、やっぱり返してもらう」

嫌だよ、とつぶやく達海の声を唇で封じ込める。
舌も飴もぐちゃぐちゃに掻き回すような激しさに似合わない、甘いオレンジの味のキスを終えて持田がころころと飴を頬で転がした。

「……ん…、ごちそうさま」

すると、少し上気した頬の達海が不機嫌そうに持田の背中に手を回す。

「あーもう……ちょうだい、持田」
「飴?」

そう言って持田が笑うと、持田を引き寄せた達海は耳元で一言、甘く呟いたのだった。

「持田がくれるものならなんでもいいや」





end
はたけさんリクありがとうございました!!

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