可愛くないなあお前。
いつものように軽い調子で言った達海は直後、思ってもいなかった返事を赤崎から聞くことになった。
「アンタが基準よりずっと可愛いからそう思うんじゃないっスか」
「……え?」
そういう返しを期待していたわけではなく、「可愛くなくて結構」とか、そんな返事が来ると思っていたのだ。
「もう一回言いましょうか?」
「い、いや、いらねえ、ストップ」
即座に赤崎に手の平を向けたが、余計に達海は混乱する。
練習中、少し次の相手で気になるところがあったから赤崎にポイントを説明していたのだ。
すると赤崎が「ああわかりました、そんなの楽勝っスよ」と言ったもんだから、可愛くないと達海が苦笑したという流れ。
なのにどうしてこうなった。
うう、と唸った達海を見て赤崎は笑う。
「やっぱり気付いてなかったっスか。俺としては結構アピールしてたのに」
「……そうなの?」
達海が首を傾げると、赤崎は頷いた。
直接的な単語はなくとも、さすがに達海も赤崎が自分にそういう感情を抱いていると気付く。
予想外の展開に思わず一歩下がった達海。赤崎はその距離をすぐに埋めて達海の腕を掴んだ。
「それで、少しは意識してもらえたっすか」
「……そりゃ、まあ」
「鈍感なアンタ相手には十分な進歩。これからはガンガン攻めるからね、達海さん」
「……なまいきだなあ、ホント」
だいたい監督にアンタってお前なあ、そんなに威厳ない?
そんな風に達海が唇を尖らせると、赤崎はフッと笑って達海を見つめた。
「さあね。ほら、練習に戻りませんか、カントク」
「ほんと、可愛くないなお前」
みんなの元へ戻ろうと背を向けた赤崎に達海が呟くと、赤崎は振り向いて「知ってるっス」と笑った。
end