また夜のグラウンドで、椿は達海に見つかった。
一応椿の思いは達海に話してあるため、二人はもしかしたら恋人同士なのかもしれないのだが、達海は気まぐれ。まだまだ、『かもしれない』レベルの話だ。
結局椿は今、達海が近くにいることで緊張して、また変なところに蹴ってしまったボールを拾おうと走っていた。

「……ほんと、犬みたいだなあお前」

しゃがみこんで、そんな椿に声をかける達海は椿と反対ですっかりリラックスモード。

「犬じゃないっスー!」

遠い椿の声に、ニヒヒと笑う顔はいつもの達海の顔だった。

「いや、落ち着きないし、ビビリだし、小型犬だな」

んしょ、と言いながら達海が立ち上がるのを目掛けて、椿は走る。

「……達海さん」

ボールを持ってきた椿を見た達海は、「よく出来ました」と椿の頭を撫でた。
達海に頭を撫でられるのは好きだけれど、年下扱いは複雑だ。
どうしようもないことだとわかってはいるけど、と椿はしゅんとした。

「もう一回行ってくるか?見ててやるよ」

ぽんぽんと椿の肩を叩いてから、もう一度達海は芝生に腰をおろした。
まるでいつも通りに笑う達海に、椿はもやもやしたものを感じはじめる。
夜のグラウンドで二人きりで、俺があなたを好きなこと、知ってるくせに。

「……なに椿、変な顔」

下から見上げてくる監督の顔に、とうとう椿は牙をむいた。
(油断してると、襲いますよ)
座っていた達海を押し倒し、椿は上に覆いかぶさる。

「わ、椿、なに」
「達海さんは俺のこと小型犬って言ってたけど」

押しのけられないか、不安は過ぎるけれど、椿は勢いのまま達海に口づけた。

「……俺、タチの悪い大型犬かもしれないッスよ」

精一杯カッコつけて言ったのに、達海は顔色を変えない。
一瞬ぽかんとしてから、芝生に押し倒された達海は、にっと笑って両手を広げた。

「どっちみち犬なのか。まあ……大型犬でもいいよ、来いよ。もふもふしてやる」

少しも揺さぶられていない達海に、逆に椿の鼓動が煩くなる。

「…………うう」

(勝てない……)
ずるいですよう、と言いながら、椿は達海の胸に頬を寄せた。

「椿」

すると達海は、また椿の頭を撫でながら、呟く。

「ほんと、犬みたいだなあ。……ちょっとならかじってもいいよ」
「達海さん……?」
「アト、残してもいいよって。あ、痛くしないでね」

思わず顔を上げて、そんなことを言った達海をじいっと見つめ、何度も何度も、達海が笑うぐらい了承を得てから、椿は達海の首筋をあまがみしてみた。
赤くなった細い首に少し残った歯型を、傷を癒すように舐めると、達海が「わんこだ」と笑うので、

「……それでもいいっす」

拗ねたように呟いて、椿は達海を抱きしめた。






end
わんわん!

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