ピンと来た。
試合の最中やハーフタイムに入る一瞬、チラと見たその人や、その人から感じた視線になにか感じたのだ。
だから持田は、試合終了の笛がなるとすぐ監督に駆け寄った。自分のチームではない、敵チームの監督に。
(出会ったのはいつの日かのテレビ中継や雑誌、それ以外に俺はこの人を知らない)
けれど、と持田は足を速めた。
ホンモノ、の達海を見た瞬間、持田は心から「欲しい」とそう思ってしまったのだ。
「ちわ、……達海さん」
「……え?ああ、お疲れさん。持田…であってるよな?さっきはどーも」
持田が声をかけると、達海は怪訝な顔をしながらも右手を出す。それをしっかり握りしめて、持田は笑った。
「名前知ってたんだ、光栄。ところで達海さんさあ、男も女もイケる人?」
「……はあ?……あの、ちょっと、離してくんない……?」
掴んだ右手はそのままで持田が言うと、長い握手と飛んだ話の内容に達海が動揺しはじめる。
(……うん)
怯えた顔もやっぱりなにか、クる、と持田は頷いた。
「俺はイケる人。で、俺はアンタが気になる。だから達海さん、まずは体からでいいからはじめようよ。ヨくするからさ」
「え、いや……持田、くん?」
「じゃ、考えといてください」
最後に独特の笑い方をしてから、持田は達海の手を離した。
そして、戸惑った達海の表情を目に焼き付けてから背を向ける。
持田、と呼ぶ達海の声がくすぐったくて、一人で笑った。
「……ハハッ」
逃がさない。
少しだけキシリと軋む足が、同じような達海の足を自分のところに連れてきてくれる気がして、持田はそこを軽く摩る。
どうしてこんなに渇望するのか、それは手に入れてから考えればいい。
(今までも、そうしてきた)
最後に一度だけ達海のいた方を振り返って、持田はまた歩きだした。
(あの人の甘い声は、どんな風に自分を震わせてくれるのだろう)
そんなことを、考えながら。
end