「後藤、寝よ」
明日は二人ともオフ。だから後藤の家に泊まりにきた達海が、ふわあと大きな欠伸をして言った。
寝よう。昔なら少なからず緊張したその台詞は、今ではほとんどそういう意味をもっていない。
(それがいいんだか、悪いんだか)
歳をとったということなのか。
しかしまた後藤は、それは自分だけのような気もしていた。
マイペースに拍車がかかった達海は、自分とは逆に子供に近付いているようだったからだ。
「……達海、俺はもう少しやることやってから寝るから」
「えー、ヤダ。寝よ」
「……いやいや、オイ、重いからやめろよ」
座って書類を眺める後藤に後ろからのしかかり、達海はニヒヒと笑った。
「なに、後藤もしかしてヤりたいの?」
「……違う」
「俺はやりたい」
達海の声にドキリと後藤の心臓が跳ねる。それは背中にくっついている達海にはバレバレで、達海はさらに体重をかけた。
「ただ、後藤とやりたいけど今はほんとねみいの。だから寝よ」
「達海、あのなあ」
「今日ガッツリ寝てさあ、明日一日中くっついてよーぜ」
「お前……」
背中にのしかかったまま、達海がそう言って後藤の耳にくちづける。
ふわりと香る同じシャンプーのにおいと、達海が楽しそうにしている気配に後藤はため息を吐いて、達海をのせたまま立ち上がった。
「うわ、後藤パワフル」
「もうわかった、寝るから。ったく」
「そーそー、最初からそれでいいんだよ、後藤」
たまった仕事はどうしよう、そんなことを考えながら後藤がベッドに腰をおろすと、達海がその唇に口づける。
「お礼」
ニヒ、と笑う達海の頭を撫で、後藤も達海の鼻にキスをした。
「そりゃどーも、……あーあ、もういいか」
どさっと達海を押し倒し、布団を被る。
「おやすみ、達海」
そして、そう呟いてから後藤は達海の頬を撫でた。
(監督を甘やかすのも、俺の仕事だよな)
後藤の心の中の言い訳を見透かすように、達海はまた、ニヒ、と笑った。
end