達海を抱く時は、いつも彼の背中を見ていた。
ゆっくりと達海を押し倒しながら思う。思ってみれば最初から達海はそうで、繋がっている時ジーノに顔を見せたがらない。
声も出さないように堪えているし、最初は恥ずかしがっているのかと思ったが、それにしては少し頑なすぎる。
(相変わらず、細いなあ)
達海のシャツを脱がしながら、ジーノは微笑む。
いつだったか、その理由に気付いたのだ。
慣れてきたとはいえ、痛みを伴う挿入の瞬間。その痛い顔や、快感のあまり痛みや苦しみと似た表情になってしまう、感じている顔。そういうのを人に見せられないのだろう、この強い人は。
(そういうとこも好きなんだけどね)
ジーノがおもむろに達海にほお擦りすると、「早くしろよ」と達海がなかなかに素直じゃないおねだりをする。

「はいはい。全く、ムードって重要だよ?」
「……いいから、早く」

ふふ、と笑ってジーノは達海の額にキスをした。
抱き合いたくないわけではなかったけれど、無理強いはしたくない。いつか、達海がいいと思うまでジーノは待つ気でいたのだ。
それなのに、今日の達海はジーノの首に回した手を離そうとしない。

「タッツミー……、俯せに出来ないよ」
「……んー、いいよ、このまましよ」
「え…………、本当に?」

嫌なんじゃ、とためらうジーノに、達海は腕の力を強くした。

「今日は、俺のことでいっぱいいっぱいな王子の顔でも見てやろーかと思って」

にひひ、と達海独特の笑い声が聞こえ、ジーノもぎゅっと達海を抱きしめかえす。

「タッツミー」

感極まって抱きしめると、達海がぱしぱしとジーノの背中を叩いた。

「ぐ、やめろジーノ、苦しい」
「おっと失敬」

少し力を緩め、達海の眉間に口づける。

「もう……ほら、早く見せろって、お前の変な顔」
「ふふ、僕はいつだって最高にかっこいいよ」

ジーノがそう言って笑うと、なんともいえない顔をした達海がジーノの顔を両手で挟み、口づけた。
そして、舌をぺろりと出して、誘う。

「達者なのは口だけか?」
「いい誘い文句だね。……そうじゃないって知ってるくせに」

誘われるままのジーノが、達海の体をシーツに沈ませた。


ローションで濡らした指で達海の中を広げる。大分慣れてきたのか、指はあまり痛くないらしい。なんだか気持ちよさそうな顔をする達海を見て、ジーノは頬に口づけた。

「……きゅうって締め付けてくるよ、ここ。かわい……っ」

甘い声で囁いていた口を手で塞がれ、ジーノが目だけで達海に抗議すると、達海はそっぽを向く。

「はっ、ん……そういうの、っ、やめろってば」

もう入れていいから、と言いながら達海はジーノの口から手を離した。

「……君は本当に、ムードを大事にしないね……」
「にひ、呆れた?」
「いや。新鮮で刺激的、だ」

言いながら、ジーノは達海の足を広げさせる。

「そうだろ、って……こら、あんま見んな」
「はいはい」

唇を尖らせた達海にキスをして、ジーノは自身をあてがう。
いつもより急いた行為に、達海に痛みを与えるんじゃないかと不安になるが、ここで逆らわせてくれるような姫ではないな、とジーノは微笑んだ。
(……姫じゃなくて、王様だしね)

「じゃあ、いくよ」
「……いいよ、はやく」

達海が目をつむったのを合図に、ジーノが自分のモノを達海の中に突き入れた。

「くぅ、……いッ……!」

びくん、と達海の背が反る。達海の中は狭く、入れる方だって苦しいのだから当然、入れられる方は尚更だろう。
「ごめん、…っ…、力抜いて、タッツミー」
「ん、…アッ、…いっ…てぇ……」
「うん……痛いね」

苦痛はあるのだが、ジーノは額から汗を流して笑った。
何が面白い、と達海は怪訝な顔をするけれど、痛みで余裕がない達海の表情はジーノにとってあまりにも、あまりにも愛おしかったのだ。
達海が落ち着くまでぎゅっとその細い体を抱きしめ、瞼にキスをする。
いつものように軽口を叩く余裕がないのか、達海はただジーノに抱き着く腕に力を入れた。いつもはシーツをぐちゃぐちゃにしているその手に抱かれながら、ジーノは今更シーツに嫉妬する。
今までの行為に勝手に拗ね、達海の首にキスマークを付けると、ようやく調子を取り戻した達海がジーノの髪を軽く引いた。

「ばかっ……んなとこ、見えるじゃん」
「そう。見えるように。……さて、動くよ」
「えっ、ちょ……っ、あっ、う」

(……ねえ、こんな顔で僕に抱かれてたんだね)
快感に歪んだ顔は、いつもどこか理性的な達海の、とても人間らしい表情だった。そして、その表情はジーノに支配されている。

「ねえ、ここは……駄目?物足りない、か。……ここはどう?」
「は、んっ、ちょっ、待て、ア、…はぁ…くっ」

じいっと達海の目を見て、ジーノが体を動かした。今日は密着しているせいで、立ち上がった達海の自身が腹に擦れ、達海に快感を与えているよう。
は、は、と浅い息を吐いていた達海が、びくりと反応して口を手で塞いだ。

「……ここ?ああ駄目だよタッツミー、手は僕の背中ね」
「ばっか、ッア、ん、んっ、そこ、……だめっ、だめだって、ジーノッ」

やだ、やだ、と言いながらぎゅっと目をつむる達海。
そんな風に切羽詰まった達海を見るのは初めてで、ジーノの体が熱くなった。

「……嬉しい。すごく嬉しい」

この人になら弱ったところを見せてもいいか。そんなふうに思ったのだろう、強い達海が。
そう思うと、ジーノは嬉しくてたまらなくなった。
思わずぎゅっと抱きしめると達海は、涙を浮かべた目にジーノを映す。そして苦笑した。

「っひひ……なさけねえ顔。……知らなかった、お前そんな顔で俺としてたのな」
「……まいったな、とっておきなんだよね。本当に、ねえ、君だけ特別なんだ」

ジーノも、じっと達海を目に映した。
それからもう一度力強く抱きしめる。
ようやく、達海の全てを抱いたような気がした。

「大好きなんだよ、貴方が」







end
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