「タッツミー、ため息をつくと幸せが逃げるって言うよね」
「……そうだな」

ジーノがそう言うと、達海はため息をついた。
今日何回目かもわからないそれに、ジーノも眉をひそめる。

「……ちょっとタッツミーは幸せを逃がしすぎだよ」

お前が言うかな、と達海はまた幸せを逃がす。
明日は久しぶりに休みが取れて、前日の夜。拒否する間も与えず自宅に達海を連れ帰ってからというもの、ジーノは必要以上に達海の近くにいた。
どうもそれが達海は気に入らないらしい。

「ジーノ。俺はそんなにべたべたするのは慣れてねえの」
「確かに肩に力が入ってるね」
「じゃなくて」

肩に回された手を払いのけ、達海がまた息を吐いた。

「俺は今、作戦を考えてる。わかるよな?」

邪魔すんな、とジーノの足を叩いた達海。ジーノはその手を握る。

「やだ。そりゃ邪魔するよ、だって今日も明日もオフで、ここは僕の城で、君はとらわれの姫なんだから」
「……ジーノ」
「おっと」

またため息を吐こうとした達海の唇をジーノが唇で塞ぐ。
そして唇を離して囁いた。

「これ以上君の幸せが逃げないように、ね」
「だーかーらー、っ……ん、ん……っ」逃げられないように達海の顎を指で持ち上げ、ジーノは深くキスをする。
気のすむまで口の中を味わい舌と舌を絡めると、はじめは嫌だ嫌だと逃げていた達海も、積極的になっていく。
十分に堪能してから解放してやると、はあ、と達海は息を荒くした。彼の顎を舐めて、ジーノは言った。

「ベッドにお連れしてもいいかな?」

途端に嫌そうな顔をした達海は、最後に大きなため息をつく。
(ひどいな、さすがに傷付くよ)
拗ねて唇を尖らせたジーノをじっと見つめ、達海はぽんぽんとジーノの黒髪を撫でる。そしてそれから、ジーノの首に手を回した。

「いいよ。今日お前のせいで逃げてった分取り返すくらい、幸せにしてくれるんならな」

チッ、と舌打ちした達海を抱き留め、ジーノは達海の髪に指を通す。柔らかい感触は、何度触れても幸せな気持ちにさせてくれる。
(ああこの人は、わかってるんだろうか……)
髪から手を離し苦笑してから、ジーノは達海の体を力強く抱きしめた。

「やだな。本当に君は殺し文句が上手なんだから」






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