「俺ってさ、前向きな人間なんだけど」
「わ、わ、……っ、はい……?」
クラブハウスの自室にて、おもむろに椿を抱きしめて達海は目を閉じた。
全くそういう雰囲気でもなく、そういう合図があったじゃないのに突然抱きしめられ、椿は内心慌てる。さっきまで「さむい」「そうっすね」みたいな話しかしていなかったのに、急にどうしたんだろう。
心の準備ができなくて、心臓の音がすぐにうるさくなるから恥ずかしい。そしてそれは達海にもしっかり伝わっていたらしく、達海は椿の肩に顔をのせてふっと笑った。
「椿、椿も俺のことぎゅってして」
「は、はいっ」
「動きがカテーなあ」
楽しそうな達海が、椿の背中を撫でる、子供にするみたいにぽんぽんと叩く。安心して、椿の手から不自然な力が抜けた。
「で、さあ」
背中から頭に移動した手が、椿の頭を撫でた。
なにか話したいみたいだ。そう判断しておとなしくされるがままになっていると、遠くから見ていた時よりずっと優しい指が、そっと、何度も髪に触れる。
「結構ね、毎日楽しかったんだけど」
「はい」
達海の手が軽く、椿の体を離した。お互いの顔が見える距離で、達海は椿の額を撫でて笑う。
「お前と会ってから、ますます楽しいんだ」
固まる椿の額にキスをして、達海は照れ臭そうな顔をした。
「アリガト、椿」
だから、泣かないで。
そう呟いた達海が、もう一度椿を抱きしめる。
「ありがとね」
痛いほど強く達海を抱きしめかえして、椿は一度だけ頷いた。
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