「ハロー?」
「な、にしてんのアンタ」
「しいていうなら人間宅配便かなー」

自宅前に座り込んでいた達海を見て、持田は目を丸くした。珍しく動揺した持田に達海はピースサインを見せる。

「ドッキリ成功?」
「まあ確かにドッキリしたけどさ」

そんな達海に目線を合わせるようにして持田も座り込んだ。提げていたスポーツバッグがどさりと音を立てる。手に持っていたペットボトルにはぬるい水が入っている。
暑い暑いそんな季節、なんとなく手を伸ばして触ってみた達海の肌もぬるい。

「持田、手ェ熱い」
「燃える男だからじゃん?」

ぴん、と達海の額を指で弾く。それに反射的に目をつむった達海の顔にキスして、持田は立ち上がった。

「とりあえず入りますか、宅配便さん。……ま、別に頼んじゃないけどさあ」
「うーわあひっでぇ傷付いた」
「その棒読みのがヒデーよ。達海さんってさ、役者には向いてないよねー」

鍵が回り、ドアが開く。一日中日に蒸された部屋の中は、とても居心地の良いものではない。
纏わり付くような空気に、うげ、と声を出して靴を脱ぎリビングに向かう。
そんな持田の後ろで達海が鍵を閉める音がした。
家ってのは心みたいなもんで、きっちり鍵をかけてるその中にいつの間にかするすると、自由に出入りしてしまうのは達海だけ。
振り向くと達海はぺたぺたと裸足の足音と一緒についてきた。
持田の目をなぜかまっすぐ見つめてくる達海。こうして彼が来たのは果たして深い意図があるのかないのか。

「達海さんさぁ、なんで来たの」
「来る気はなかったんだけどね、うん。気付いたら勝手に?」
「ははっわかんねえー」

問うても結局わからない彼の真意と建前ごと、達海の手を捕まえた。
もう慣れて驚きもせず繋ぎかえしてくる達海の手はどう考えても男で。だけどそんなのはもうとっくにどうでもいいものになっている。

「持田に会えなくて、寂しくなってきたーつって?」
「……だから、棒読みすぎだってば」
「照れんなって」

疲れた体に沁みる声が、背中いっぱいに広がって、いつしか抱きしめられていた。
身長は二人、同じぐらい。現役の自分よりちょっと細い腕が背中から体の前に回る。片手は持田に捕まえられたままだから少し不格好な、抱擁。

「達海さん、あちーよ」
「うん、俺も。」

背中にいる達海の表情はわからないけれど、最近会えていなかったのは本当で、彼は実は寂しかったのかもしれない。
廊下の真ん中で、まだ窓も開けずに持田が少しにやけていると、達海の腕に段々と力が入っていく。明らかに抱きしめるというレベルではなくなっていく力に持田が笑いだすと、達海も楽しそうな声をあげた。

「いっ、痛い痛い痛い達海さんギブ、ちょっ」
「あーマジであっちーな、こうしてると」
「わかってんなら離してくんない?」

笑い声をあげながら持田が達海の腕を叩く。蒸し暑い部屋では少し動くだけで汗が吹き出た。
ぬるつく二人の肌が気持ち悪い、早く風呂に入りたい。そう思って行き先をリビングから変更し、ずるずると達海を引きずりながら風呂場に向かうと、背中にくっついたままの達海がはあと息をつく。

「本当暑いや。あのさあ俺ってクール便だから、暑いのは嫌なんだけど」
「へえー」

達海はくるくると持田の背中に字を書くように指をはわせる。その、達海の性格からすると特に意味のないであろう行為を振り払って、持田は服を脱いだ。
上半身だけ先に裸になって、脱衣所のカゴの中に服を脱ぎ捨てる。それから達海を振り返った。こうして明るいところで見れば、いつもはぴょんと跳ねている達海の髪が今はなんとなくへたっているのが面白い。

「じゃあ熱いのはどーよ?……はい、腕あげて」

特に意見も聞かないまま、達海の服も脱がす。すぽっと服を抜き取ると、へたった髪がさらに変な形になった。

「それは意外とスキかな」

にっと笑った達海が持田のズボンに手をかける。子供みたいにぎゃあぎゃあと騒ぎながら互いの服を脱がしあい、ますます汗だくになってから二人はキスをした。二人が絡まるように倒れ込んだ脱衣所の床にばさりと、最後に脱いだ下着が落ちる。

「……ってさ、このままえっちなことする感じかね、持田くん?」
「いやだな、その前にとりあえず風呂。汗ヤベーもん」
「丁寧に洗ってよー、にひひ」
俺が洗うのね、と面倒そうに呟く持田。
疲れてるのに、とんだお荷物が来ちゃったなあ。そう呟くとお荷物からブーイングが飛ぶ。

「あーはいはい、ありがとうね嬉しいよマジで」
「お前も俳優に向いてないね、ぜったい」
「そうかなー?ま、ほらおとなしくしてよ。割れ物注意ってことで、手だけは優しくしてあげるから」

持田の唇が楽しそうに緩められて、ぱたんと静かにバスルームのドアが閉まった。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -