「おはようございます、監督」
「おー、おはよー……熊田?」
「はい?」
不自然に上がった達海の語尾につられて首を傾げると、達海は面白そうな顔で熊田の額を指差した。
「可愛いじゃん」
「え……あ!」
なんだろうと思い、ぺたりと額に触ると、硬いものが指に当たる。そいつが何なのか思い出して、熊田は慌ててそれを髪から引き抜いた。
手の平にころんと転がるのは、さりげなく重宝しているものだ。
誰かにあげるはずだったプレゼントであり、中途半端に伸びた前髪を洗顔中にまとめるために使っている、ピンクのヘアピン。
「おまけに水玉なんだ、にひひ」
「あー、これはその…」
これを家からここまで付けてきたのかと思うと頬に一気に熱が上がった。
そんな熊田を見て達海は楽しそうな顔をする。反撃をしたくなるような、悔しいほどの笑顔だった。
「可愛いから付けてればいいんじゃねーの?オシャレさん」
「……ヘディング出来ないから、だめですよ」
「残念だなあ」
ヘアピンの無くなった熊田の長い前髪を触って達海が言う。
そのとき一気に近付いた顔を見て気付いた。達海の前髪も少しのびていることに。
「達海さん」
さらさらだ、そんな声と一緒に細められる達海の目を見つめながら、熊田はポケットにしまったヘアピンをもう一度取り出す。こういう時に使うものなのだから。
「じゃあこれ、預かっててくださいよ」
「えー、やだよ。俺オッサンだし」
慣れた手つきでそれを達海の髪につけると、茶色の髪にピンクのヘアピンは妙に似合っていて、今度は熊田が笑う番だった。
達海はというと、落ち着かないようすで唇を尖らせている。
それを見て、不覚にもドキッとした。
「オッサンでも似合う…から……やっぱ無しにしましょうか」
「うん?」
不思議そうにする達海の髪からヘアピンを抜く。
思っていたより可愛かった、人に見せるのは勿体ない……だなんて、恋は盲目もいいところだ。