「なー後藤。後藤ってえっちしたくない人?」
「……は?」
達海と友人の延長のように付き合い出してから長い。キスまではしたけれど、それ以降は無し。特別な日でもない金曜の午後、今日も後藤の部屋で、二人は思い思いにリラックスしていた、そんな関係。
だけど別に、そういう行為をしたくなかったわけじゃない。
達海がまだ19歳ということを配慮しての我慢であって、と後藤が早口でそう言うと、達海は、
「……あ、我慢してたんだ」
そう、意外そうな顔をしてみせた。なんだその反応は。
「我慢するよ、そりゃ」
「えー?いいのに。それならヤろうよ、後藤」
「え……いいの?」
「うん」
我慢していたとか、年上のメンツだとか、シチュエーションがとか、そんなことを言う前に、達海に引っ張られるまま二人で後藤のベッドに座り、お互いに一度手で抜いた。
着替えや風呂で何度も見た体だけど、どうしようもなく興奮して後藤はほとんど何も話さないまま。
どちらかというと達海の方が、慣れているとさえ思えるような手つきや言葉で後藤を追い上げた。
「後藤の、濃いね」「……あのなあ」
少し上気した頬の達海が、指についた後藤の精液を面白そうに弄る。
たまらなくなって達海の身体を押し倒すと、その時はじめて達海が動揺を見せた。
「わっ、え、ちょ、ちょっとストップ」
「なんだなんだ急に」
「後藤……その、まだやるの……?」
なんだよ急に不安げな顔して。さっきまで生意気ないつもの達海だったのに。
汗ばむ達海の額を撫でて、後藤は熱を逃がすように長く息を吐いた。
「したいけど、達海が嫌ならしないよ」
「嫌っていうか……なにするの、もっかい手でやる?」
「あー……そういう…、…まいったな」
まさかそうくるとは思わなかった。
思わず苦笑する。余裕があるように見えても、年下なのだということを忘れていた。
言おうかやめようか迷ったけれど、結局不安な達海の目に負けて、軽くその尻を揉んだ。
「こっち」
「……え?」
「ここに入れるんだよ」
「……ここ?」
おずおずと足を開いてそこを示す達海に後藤が息をのむと、それで達海も察したよう。困惑した顔で瞬きを繰り返す。
「入るの?後藤、入れたい?」
「入るかわからないけど、……入れたい」
「……そーなんだ…」
頷くと、達海は視線を揺らした。嫌ならいいよ、と言いかけた言葉は達海が袖を引っ張って止める。
「我慢するから、……いい」
「いいのか、ほんとに?」
「ん」
じゃあ触るよ、と囁くと達海が頷く。どうも素直な達海は調子が狂う。
額をくっつけてそう言うと、嫌な顔をした達海が後藤の手の甲をつねった。
柔らかくなってきた中で指をくるりと回した。思っていたよりずっと素直に開いていく達海の身体に、思わずスピードを上げてしまいそうになる自分を度々戒める。
ふう、と落ち着くために息を吐くと、緊張か羞恥か、息が上がった達海の横顔は時折困ったように後藤を見つめた。
「ごとー……、なんか、気持ちいいんだけど、ッ、これって……」
「変じゃないよ。可愛い、達海。好き」
「お前っ、そればっか、やだぁ……っ、あ、ゃッ」
最初は指すらキツかったそこがどんどん柔らかく口を開く。達海の声が甘くなるにつれ、中を探る指も大胆になるばかり。
「……もう一本、いいかな」
「あ、ひッ」
くちゅ、と二本目を挿入すると、達海はびくびくと足を震わせ、顔を手の平で隠した。
「あ、ぁ、ふ、っ……、んッ、ん、やっ!」
「ここが……嫌?」
達海の手をさりげなく取り肩に回させながら、一際反応した場所を指でゆっくりと擦る。面白いように甘い声を出す達海は、それでもやっぱりどこか不安そうだから、何度も何度も言葉をかけて。
「ここ、気持ちいいんだな。……可愛い」
「まっ、まって、ッ、あっあっ、あッ、ひぅぅ……」
は、は、と上がった達海の息が耳に当たってぞくぞくする。達海は後藤のシャツをちぎれんばかりに握りしめて抱かれていた。
いつもよりずっと頼りない顔が、可愛い。
「嫌、後藤の指が俺の中にいんの、わかるから、……やだよ、なんか……すげー恥ずかしい」
「うん」
「だって、だってさ、……やっ!うごかさな、あぁ……っ」
「俺だってお前に煽られてばっかりで優しくできなくて恥ずかしいよ」
ちゅく、と糸を引いて指が抜ける。
柔らかいそこを何度も撫でていると、達海の手が後藤を引き寄せた。
「達海、……いいか?」
「……ん。後藤優しいしね」
「どうかな……約束は出来ない、かも」
痛みを伴う可能性があるせいでなかなか繋がるための心の準備が出来ず、少しでも気持ちを溶かしたいとキスをする。
濃厚なキスはあまりしないせいか、少し苦しそうな達海は涙を浮かべて後藤の肩をつついた。
「……食べられちゃう?」
「あのな、涙目でそんなこと言うなよ」
「泣いてねーよ、あくび!」
肩で遊んでいた指が背中に回される。自然と近くなった距離で見つめ合うと、達海はへらりと笑って、後藤の頬をつまんだ。
「後藤こそ、……情けない顔しちゃってさ」
「そうかも」
「そうだよ」
その指にキスをして、それからしっかりと繋いだ。
こんなに緊張するのも久しぶりだ、だけど、きっと仕方ない。
ちゃんとした理由があるから、と後藤はもう一度達海に口づけた。
「だって好きなんだよ、お前が」
事が終わり、体が痛いとひたすら恨み言を言ってくれる達海の頭を撫でた。
「ごめんって、達海」
「……手帳に『初えっち記念日』とかやめてよ?」
「か、書かないにきまってるだろ」
「どーだか。……だって後藤、俺のこと好きすぎるんだもん」
拗ねたように、照れたように言う達海に苦笑してみせて同じ言葉を何度も繰り返す。
「実際好きだからな、達海のことが」
「……俺も」
小さな声で呟いてから、達海は耳まで赤くして布団の中へ逃げ込んだ。