達海は負けず嫌いらしい。
まあそれはわかっていたけど、とジーノは苦笑する。彼の足を抱えて一番深いところで繋がる、そんな時でさえ達海の意地はなかなかジーノに勝ちを譲ってくれないのだ。
甘く鳴いたかと思うと、仕返しだとばかりに煽ってくる、そんな繰り返し。
「今日はおとなしくする」と宣言したくせに、すっかり忘れているのか、今日も今日とて変わらないその態度にジーノは苦笑を漏らした。
「そんなとこも好きなんだけどね、たまには……僕に全部委ねてくれてもいいのに」
「や、だよ…、ッ……あぁ、あ…だって、なんか悔しい、し」
「っ、わかるけど……ちょっと待って、体勢変えよう」
一度繋がりを解いて、ジーノは自分の身体の上に達海を座らせる。げ、と嫌そうに顔を歪めた達海に笑いかけ、その先を促した。
「え、これヤダって……もー……」
「うん、ゆっくりでいいから、入れて」
「……ばか」
尖らせる癖のある達海の唇がますます尖る。少し冷たい達海の手に何度か性器を撫でられ、直接的な快感にじわりと反応しながら、ジーノは目で達海に訴えた。
早く、早く繋がりたくて仕方ないんだけど。そんな視線で射抜くと、達海は観念したようにゆっくりと後ろにジーノのモノをあてがい、腰を下ろす。
「あ、ああ、ぅ、これ、やだ…っ」
一番太いところを飲み込んだところで、苦しそうな息を吐いた達海が足に力を入れる。
これ以上一気に入れるのは嫌だと震える声ごと達海を撫でて苦笑した。そこで止まられるのは、なかなかこちらも苦しい。
だからジーノは達海の手を取り、その目を見つめた。
「……、ん、ごめん」
「ひ、あッ!まっ、あッ、あぁー…っ」
下から軽く突き上げると、達海の身体から力が抜けて一気に奥まで繋がる。
びくびくと反応した達海の身体を抱き、快感にしなった背が猫みたいだと、ジーノはそんなことを考えていた。
淫らにうねる内壁をゆっくり掻き回して、反射的に跳ね上がろうとする腰を押さえると、達海は快感に色付く顔を出来るだけジーノに見えないよう隠す。
「駄目だよ、見せて」
「や、だ……」
「僕だってやだよ」
顎を掴んで強制的に顔を上げさせると、うるんだ瞳と目が合った。そのまま腰を揺すってやると、震える手でジーノの掌を掴んだ達海が、ぎゅっと目を閉じて喘ぐ。
そこがいい、そう小さな声で呟く唇にキスをしてリクエストに応えて、一瞬油断をした時。
きゅうっと中を搾るように締め付けられ、不覚にも溢れたのは嬌声。
「ん、あっ」
「はは、ッいい声じゃん、ジーノ」
にやりと笑う達海に苦笑を返す。やられた。
「く……キミは本当に、読めないね。猫みたいだ」
仕返しにずぷりと大きく突き上げると、涙混じりでひっくり返った声が響いた。
「それ、だめ、んんっ、あ、あぁ、んあッ、ひっ」
「は、タッツミーが、悪い。今日はっ、おとなしくするって言ってたのにさ」
「あ、んぁッ、いったっけ、ぁッ、んな、ことッ」
「っ……、言ったよ…なんで忘れるかな…」
脱力感にジーノが一度動きを止めると、上気した頬の達海が首を傾げる。指で涙を拭ってやると、達海はゆっくりと瞬きをする。
「ん、ん……?……気まぐれな猫ってお前が言ったからさあ、そういうことで」
「開き直らないでよ、もう」
「あ、ちょっと、…ジーノ、あ、ぅ」
ほんの少しだけ機嫌を損ね、眉根を寄せて、くりくりと達海の乳首を弄りながら首筋を舐める。
繋がったままそうすると、快感に素直に反応する達海の中がきゅうっと締まった。
それをそのまま声にして指摘してやると、えっち、と喘ぎ混じりに言った達海がジーノの背中に手を回す。そして挑発的に笑った。
「ぁ、…んっ…、俺がめろめろになるくらいいっぱい撫でたら、従順な猫になるかもよ」
「へえ、興味深いね。どこを撫でてほしい?」
喉をくすぐりながら言うと、その手は捕まえられ、達海に舌をはわされる。赤い舌に目を奪われジーノはごくりと唾を飲んだ。そしてそれをさらに煽るように、色を浮かべた瞳で達海が見上げる。
「全部」
全部撫でて、いっぱいイかせて。うっすらと笑んだ達海にそんな風に囁かれてぞくりとした快感が背を走った。
策略だとわかっていても、もうスイッチはとっくに入っている。
「そしたらおとなしくなるよ、多分。もしかしたら噛み付いて、引っ掻いちゃうかもしんないけど」
「ふふ」
それもいいかもね、と言うと、ジーノの背に軽く背中に爪が立てられる。
やっぱり猫だなあ。そう思いながら達海の背を撫でると、黒い瞳がふにゃりと気持ち良さそうに緩んだ。
彼が猫として、はたしてこれは調教しているのだろうか、逆に調教されているのかもしれない。
(でも……もうどっちでもいいや)
茶色の髪を撫でて不敵な笑みを浮かべてから、ジーノは達海の耳を軽く噛む。
「じゃあ、大人しくしてもらおうかな」
直接耳に囁きかけると、愛しい猫は嬉しそうに声を上げた。
end