かじる。かじるかじるかじる。
軽い食感のものだったらしいチョコレートが、サクサクと音を立てて砕かれていくのを、椿はぼんやり眺めていた。
「なに見てんの」
欲しい?と聞く達海に首を振ると、達海はゆっくり瞬きしながらまた歯をチョコレートに突き立てる。
達海が食べているのは、椿宛てのチョコレート。義理でもらったものやファンがくれたそれは食べられない量ではないが、達海が食べたいと言ったのでこうして机の上に広げてみたのだった。
色々な箱の中から好きなものを選んでチョコを摘みあげ、食べる姿はとても無防備で、幼い。頬杖をつきながら、見ていて飽きないなあと椿は笑った。
「達海さん、チョコ好きなんスね」
「まあまあかなー、これはうまかったよ」
また一つ、達海が口に指を持っていく。
それから白い歯が小さく唇からのぞくその一瞬、ドキリとするよりはじんわりと心に熱がたまるような感覚が椿を撫でる。
なんとなく目が離せずいると、達海は片手を伸ばして椿の目を塞いだ。
あたたかい手の平に隠された達海の顔。椿がそれに苦笑すると、ただじゃれていただけのようで、達海はすぐに手を離す。にやにや笑う顔が視界にあるとひどく落ち着いた。悔しいほどに、好きだ。
「椿の熱視線でチョコ溶けるんじゃねえの」
「俺が見てるのは達海さんっす」
「……そういうのは無意識で言うなってば」
さっきまで笑っていた顔が、一瞬で余裕を無くした。くるりと変わる彼の表情に愛しさのあまり笑うと、達海は3つめのチョコを拗ねたような顔で口に放り込む。
「タラシ。だからこんなにチョコもらうんだよ」
「達海さんだって貰ってたじゃないっすか」
「俺はいいの」
少し納得がいかないと首を傾げながら、椿はなんとなく目についたチョコレートに手を伸ばした。
しかし、赤い包みのそれに届く前に、伸ばした手は机に押さえつけられる。
「駄目。お前宛てのチョコなんて全部俺が食べてやんの」
「だ、駄目っすよ、せっかくくれたんだから食べなきゃ」
「どうしても?」
「どうしてもっす」
食べないと申し訳ないと零すと、少し不満そうな顔の達海はゆっくりと椿に顔を近付けてきた。
意外に長い睫毛が椿の目の前でぱちりと動いて、達海の瞳を隠す。
「じゃ、口開けろ」
食べさせてあげる、と言った達海の唇の甘さに椿も目を閉じた。滅多に感じない達海の独占欲と積極的な態度に、高まる気持ちは抑えられそうにない。
心配しなくても、自分の気持ちを掴んで離さないのはあなただけだとキスの合間に言うと、達海はもう一度口づけてきた。
知ってるんだけどね、と囁く声は、椿の心を直接揺さぶる。
「知ってるけど、嫌だよ椿」
「……もう、ずるいっすよ」
心の奥でチョコレートをくれた誰かに謝ってから、椿はぐっと力強く達海を抱きしめた。
(すみません、チョコ、食べられないかも)
自分を丸ごと支配してしまう、王様の命令は絶対なのだから。
end