朝から写真付きの、テンションの高いメールが届いていた。開くと、やんちゃな後輩の袴姿。それから携帯の画面右上を確認して後藤は一人納得するとともにため息をついた。
今日は成人の日だ。
とうとうこの日が来てしまった。
(あいつ、しっかり覚えてるもんな……)
本当なら、ちょっと変わった後輩である達海の成人を普通に祝えばいいだけの話。
しかし、後藤がメールで普通に祝ってみたところ、達海は『お祝いはカラダでお願い』なんて返信を寄越した。笑えないのは、これが冗談じゃないからだ。
前々から、隙あらば好き好きと後藤にひっついてきていた達海。最初は頑なに突っぱねていた後藤だが、そのうち反応するのが面倒になり、さらに経つと少しほだされてしまった。残念ながら、可愛い後輩に好かれて無下に出来るような性格ではなかったのだ。
だからその時――もう半年ほど前にぽろっと、『じゃあお前が成人したらいいよ』と言ってしまった。その時の達海の嬉しそうな顔は今でも思い出せるし、その時の自分は今でも殴りたいと思っている。

さて、そんな回想をしながら練習をしていると一日なんてすぐに過ぎてしまうわけで。
辺りも暗くなったころ、自分の部屋の扉がコンコンとノックされた音に、後藤は飛び上がった。

「……はい?」
「ゴトー!!」
「うおおお…っと、急に抱き着くな!」

おそるおそる扉を開けると、案の定。べろべろに酔っ払った新成人が飛び込んでくる。
飛び込むついでに抱き着いてきた達海は、袴は脱いだらしく、シンプルなスーツ姿はなかなかに似合っている。ああこいつ、同窓会でモテたんだろうなあ。けれど、それにしても酒臭い。

「後藤、俺成人したんだー」
「はいはい、おめでとう。お前の部屋は隣だからさっさと帰って寝なさい」
「やだ」
「やだってお前なあ…」

抱き着く達海をなんとか引きはがして、慣れないアルコールにふらつく体をベッドに座らせる。
ため息をつきながら達海を見つめると、顔を赤くしながらも意外にしっかりした目をしていて、不覚にもドキッとした。

「後藤、……後藤、約束守って」
「いや……あれは、冗談みたいなものだろ」
「違う」

酔ってはいるが真面目に話している達海。しゃがんで視線を合わせてやると、「そういうとこがずるいね」と苦笑された。
話は聞いてやるけれど、やっぱり後藤にその気がないことなど、達海にはばれているのだろう。特に、こんな状態の達海は抱きたくなかった。
酔った勢いで汚していい相手ではないことぐらい、理解している。
後藤が何もいわず微笑んで達海の頭を撫でると、達海は泣きそうな顔で後藤を見て……、否、泣いた。

「後藤の嘘つき!……もうこうなったら襲うかんな!」
「ちょ、ちょっと待て!前言撤回だ、お前やっぱりやばいぐらい酔ってるな!」
「うるせー、俺はずっと我慢してたの!」
「うわ!」

これだから酔っ払いは困る。
しおらしい雰囲気だったはずの達海に、しゃがんでいた状態から飛び掛かられ、床に倒れ込んだ。
背中が痛いけど、そうも言っていられない展開に頭がぐらぐらとした。

「俺さあ、誰かに抱かれたいなんて思ったの、本当にはじめてなんだよ」

のしかかってくる達海は絶えず涙を流して、怒ったような顔でこちらを見つめてくる。
そんな顔なんて初めて見た。

「達海、……達海、駄目だ」
「なんで?いいよ、痛くてもなにしてもいいからさー、後藤がしてくれるなら、なんでも」
「あのなあ、そんな言い方するなって…お前のことは、すごく大事だから…」

ああやっぱりほだされている。それはわかっていたけど、泣いている達海を抱きしめる腕を止めることが出来なかった。
抱きしめた途端、目を丸くして嬉しそうに擦り寄ってくる達海も、悔しいけれど認めざるをえない。

「可愛いんだよ、お前のことが」
「……かわいい?」
「そう、すごく」

同性に抱いたことのない感情ではある。
これが好きとかそういうものなのかはまだわからないけれど、きっと、自分に出来ることならなんでもしてあげたいレベルには、達海が可愛い。愛しい。
だからこそ、ここで間違ってはいけない。
その言葉になにか思うところがあったのか、「そっかあ」と嬉しそうに呟いて、ぎゅうぎゅう抱き着いてくる達海。
全身から伝わってくる好意。ずるいけれど、やっぱり自分はそれが、心地好いのだ。
(いやな大人になったもんだ)
くしゃ、と茶色の髪を撫でると、達海は目をとろんとさせて後藤を見つめる。
達海が言いたいことはなんとなくわかって、それを許してしまう自分に自嘲しながら、後藤は達海を呼んだ。

「…達海…キスだけだからな」「うん」
「成人、おめでとう」
「ん、後藤、すきだよ」

子猫のような、物足りないほどに可愛いキスを何度もしてから、達海は後藤の上で動かなくなった。むにゃむにゃと、「いつならだいてくれる?」と呟いたきり、静かになる。最後までそれかと苦笑しながら、額をつついてみた。

「いつなら、か。……お前が本気で迫ってきたら、逆らえないんだろうなあ…」

見事に眠ってしまった達海をベッドの上に転がして、その寝顔を眺める。

「ほんと、大変なやつに好かれたもんだ」

熱い唇の感触を思い出して頭を抱えた。
この分じゃ、先に我慢が出来なくなるのは自分なのかもしれない。





end


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -