(ん?)

自分の背中を抱いている椿が動いた気配で、達海は目を開けた。目を覚ます、というほど時間は経っておらず深い眠りに落ちてはいなかったから、ぼんやりとまだ眠たい意識の中で瞬きをする。
その間も背後の、完全に覚醒したらしい椿は、達海を抱きしめる腕の力を強めたり、ちゅ、と裸の肩にキスをしたり。
(……ははあ)
したい。
そういう雰囲気が伝わってきて、ばれないように達海は唇をふにゃりと歪ませた。
さっきまでまさにそういうことをしていたとはいえ、若い身体はあれじゃあ足りなかったのだろうか。
あの椿が寝込みを襲うなんてよっぽどだなあと楽しくなるけれど、それでも自分は睡眠欲に勝るような欲を感じられない。
とりあえず、現時点では。
ふっと笑ってから、達海は自分の身体にまわされた椿の腕を軽く掴んだ。

「……椿、くすぐったい」
「すみません、……すみません」
「したいの?」

こくりと頷く椿の気配に、達海は目を閉じたまま笑う。
素直なやつは好きだよ、と言うとやっぱり面白いほど反応する椿。自分にからかわれる椿が、かわいそうなほど、愛しい。

「どうしてもしたいなら、いいよ……俺は寝るけど」
「……寝られちゃ、困るんすけど…」
「いい加減に、寝かせないぐらい言ってみなー」

達海がくたりと身体から力を抜くと、「うう」と唸った椿がまた肩にキスをした。
肩からうなじへ、ゆっくりと何度もキスをする椿。
優しい愛撫にくたりと瞼が落ちていくと、引き戻すように耳を軽く噛まれ、まどろみに沈みかけた達海の意識がひくりと浮上する。

「……つばき、くすぐったい」
「背中、細いっすね…」

監督、と吐息だけの言葉が耳をくすぐる。
起きたばかりにしては熱い椿の指が、背中の骨をなぞった。もしかして、興奮したままずっと起きていたのだろうか。
そう思うとやっぱりからかいたくて仕方がなくなるのだが、ゆっくりと動く椿の指が、達海にそれをさせまいとする。
(背中、弱いんだよなあ)
いよいよ本格的に、くすぐったいではすまなくなってきた愛撫に、達海はぎゅっと目をつむった。

「……ちゃんと、ご飯食べてください」

すっと上から下へ、背中の真ん中をなぞられて、甘ったるい息が漏れる。
かぷ、と噛まれた肩のじわりとした痛みも、達海を揺さぶる甘さになっていった。

「あ」

ちゅ、と肩甲骨に吸い付いた椿の唇に、ぴくりと反応して声が漏れる。
それに気をよくしたのか、丸まった達海の背中を椿はぬとりと舌でなぞった。逃げられないようにしっかり抱かれ、その強さにもくらりとする。
椿のくせに。
いつの間にか、達海をその気にさせる方法を覚えていた椿に舌打ちをしてから、達海は声が揺れないように慎重に言葉を紡いだ。

「ん、ん……椿、もう、背中だけじゃやだ」
「……へへ」
「笑うなっての。退屈で寝ないように、…気持ち良くしてね」

うす!とまるでムードのない声のあとに、椿が達海を振り向かせてキスをする。
あまり上達しないキスを受け止めながら達海は、ゆっくりと椿の肩に手を回した。
(負けたなあ)
嫌な敗北じゃないのが余計に悔しい。
だからちょっとした仕返しにと、目を閉じたまま、達海は椿の肩をくるりと指でなぞったのだった。





end


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